(提供:hanasaki/イメージマート)
  • 「装飾としてのヒゲ」という説に対抗するように、「武器としてのヒゲ」、つまり男性同士、相手を威嚇するためにヒゲがあるのではないか? という説が出てきた。
  • 動物界でも口とあごは他の個体との関係では重要で、歯をむき出しにして相手を威嚇するサルが典型。しかし、厳密には、人間のヒゲに該当するものは動物にはない。
  • 男性的ではあるが誇示しすぎない絶妙なバランス感覚を持つ「無精ヒゲ」に、女性が好感を持っていることも調査で明らかになった。ヒゲはなぜ生える?(後編)。(JBpress)

(*)本稿は『ヒゲの文化史:男性性/男らしさのシンボルはいかにして生まれたか』(クリストファー・オールドストーン=ムーア著、渡邊昭子・小野綾香訳、ミネルヴァ書房)の一部を抜粋・再編集したものです。

【前編】ヒゲはなぜ生える?ダーウィンも未解決の謎、ハゲとは兄弟で女性を誘惑…突き詰めると「男とは何か」が見えてくる

「装飾としてのヒゲ」理論の証拠が決定的でないことから、競合する「武器としてのヒゲ」理論への道が開かれる。しかし、ヒゲはどうやって男たちが戦うのを助けるのか。

 社会生物学者のR・デイル・ガスリーは一つの説を示した。威嚇である。動物界のなかで性的優位をつくろうとするオスの競争は明白である。そしてオスのディスプレイは、「斑点、まだら模様、縞、たてがみ、首のまわりの毛、胸垂、精巧な尾、鳥冠、飾り羽、派手な色のパターン、肉垂、ふくらむ袋、とさか、咽の斑点、ふさ毛、ヒゲ、そしてその他の多くの装飾」など、あらゆる場所にみつけられる。

 クジャクの鮮やかな羽による壮大なディスプレイは、ガスリーの説明によればメスを引きつけるためではなく、ライバルのオスを威圧するために機能する。そのメッセージは「私を選べ」ではなくて「さがれ、私の方が強い」なのである。

 サルの間では、歯をむき出しにすることやその他の口の動きが社会的な合図として重要な役割を果たす。あごと歯は動物界のほとんどで主要な武器であり、霊長目のオスの装飾は、顔の下側に対照的な色を使ったり首まわりの毛であごを大きくみせたりするなど、口とあごに関連するように思われる。

ヒゲの文化史:男性性/男らしさのシンボルはいかにして生まれたか』(クリストファー・オールドストーン=ムーア著、渡邊昭子・小野綾香訳、ミネルヴァ書房)

【著者】
クリストファー・オールドストーン=ムーア
アメリカ合衆国オハイオ州のライト州立大学で教鞭をとり、研究活動を行っている。大学のホームページによると、1992年にシカゴ大学で歴史学の博士号を取得。近代イギリス史専攻。宗教と政治の相互作用に関心を持ち、1999年に最初の単著として牧師ヒュー・プライス・ヒューズの評伝を刊行。次が本書である。

 私たち人類の祖先も同様だったのかもしれない。つまり、初期人類の暴漢たちは歯をむいてうなって威嚇し、周囲を脅えさせたのだ。

 あごを突き出してさらに効果を上げたかもしれない。えらの張った顔や歯を食いしばったあごが、強さや攻撃のサインとしていかによく語られるかをガスリーは指摘する。それと対照的に、引っ込んでいるあごは「弱い」とされ、人があごを引くのは恐怖や身を引くしるしとして観察できるかもしれない。

 毛の生えたあごも同じような目的で機能する。それは口と顔を大きくみせることから、より威嚇的にみえる。