- 6回にわたって連載をしてきた【人事改革の落とし穴】。最終回は「労働移動」、つまり転職を考える。
- 転職は、より高い賃金やキャリアアップを目指すものだと思われがちだが、実はそうした動機は少なく、職場の人間関係のトラブルが最大の理由だ。
- 逆に言えば、職場が楽しければ給料やキャリアは転職の動機にはなりにくい。背景には働くことに対する日本人の「意思のなさ」がある。この状況を、どう変えていくべきか。
(小林祐児:パーソル総合研究所 上席主任研究員)
成長戦略や構造改革の議論の中では、労働市場の流動性を高めることが重要だという主張は多い。岸田政権の掲げる「三位一体の労働市場改革」でも、「成長分野への労働移動の円滑化」は柱の一つとして盛り込まれています。
新しい資本主義実現会議においても、岸田首相自ら「内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、労働者が自らの選択によって労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務」と述べます。
「言うは易し」の円滑な労働移動
さて、しかしこの労働移動というトピックは、労働政策の中でもかなりの「難問」です。高い給与を払えない生産性の低い会社から、より高い会社へと人がスムーズに移ることによって経済全体が活性化する。
その論理は「教科書通り」ではありますが、「では、どのように実現するのか」という点において多くの疑問が残ります。もし、シミュレーションゲームのように、コントローラーの操作一つで人の移動が可能であれば簡単ですが、もちろん現実の人の動きはそうではありません。
実際に、こうした労働移動の重要性は長年唱えられ、様々な研究もなされてきました。しかし、日本の労働市場全体としては、労働移動の活発化や、転職に伴って賃金上昇が広く起こっていると言える状況にはありません。近年は特に転職希望者が増えているトレンドが見られますが、実際に転職が安定的に増えているかというと、そうではありません。
この「労働移動」という無味乾燥な言葉は、ミクロで見れば個々の「転職」の塊です。転職というのは、働く個人にとっては人生で2、3回しか経験しない、引っ越しよりも少ない「一大決心」です。筆者ももちろん転職経験者ですが、私たちは、生産性や経済成長のために転職したりすることはありません。
では、人はいかなる時に転職=労働移動するのでしょうか。次ページから詳しくみてみましょう。