文春が松本人志に見せた「武士の情け」

博士:たとえば、「週刊大衆」(双葉社)や「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)などの雑誌は、ある年齢層の男性をターゲットにしています。

 ネットが普及する前は、どういう雑誌を作れば、どの程度売れるかということがかなりはっきりしていたけれど、今は無料で読めるものが膨大に増えて雑誌そのものはかなり売れ行きが細っています。

「週刊現代」や「週刊ポスト」はヘアヌード路線を始め、「週刊現代」は「死ぬまでSEX」特集をずっとやっていました。活字を読むおじさん向けのコンテンツですよね。

 こういった中で、「週刊新潮」や「週刊文春」は男女両方をターゲットにしており、飛行機のファーストクラスにも置かれている。歯医者さんに置いてあるのも週刊文春ですね。

 ヘアヌードを春画で載せて、一時、この本の著者である新谷さんは更迭されていましたけれど、基本的に「週刊文春」に度の過ぎたエロはありません。

──宮崎謙介・元衆議院議員の不倫報道があった時に、奥様の金子恵美・元衆議院議員が妊娠していた。奥様の体調を考慮してスクープを出すタイミングを調整したという話が印象的でした。

博士:雑誌は人が作っているものですから、そういう配慮はあります。文春はたくさんスクープを持っていますが、何をいつ出すかを決めるのは編集長です。

 松本さんの性加害疑惑なんて数カ月前から仕込んでいたはずです。松本さんは「M-1グランプリ」(ABCテレビ・テレビ朝日系)の審査委員を務めていましたから、タイミングとしては年末のM-1に出場できないようにスクープを放つこともできたでしょう。でも、放送を待ってから出した(※)。あれは武士の情けだと思います。

※『M-1グランプリ』が放送されたのは2023年12月24日。松本人志性加害疑惑の第一弾が週刊文春に報じられたのは、同年12月27日発売号だった。

 この本の中に、渋沢栄一の著書『現代語訳 論語と算盤』(筑摩書房)からの引用がありましたが、ペンを持つ者は武士の精神を持たなければなりません。そして同時に、ビジネスを疎かにしてはならない。

 そのあたりのことを考えることができる、大学でジャーナリズムを勉強してきた人たちが「週刊文春」を回しています。これに対して、吉本の経営陣はというと、松本さんのマネージャーを務めてきた人たちが幹部を占めている。

──吉本興業の大崎洋前会長や岡本昭彦社長、藤原寛副社長などですね。