基軸通貨ドルが、二波、三波、地位を掘り崩そうとする政治的攻撃を浴びている。

 中国とロシアがほぼ同時に仕掛けたと思ったら、国際金融論議の参加資格をいつ得た心算か、国連までもがジョー・スティグリッツ(Jo Stiglitz)率いる特設専門委員会を押し立てドル攻撃網に加わった。

 ただし主張は同工異曲。どの一国の負債でもない通貨をもって、ドルに代替せよという。

 共通の結論がSDRの拡大である。ドルを補完する準備通貨となるのを目指し国際通貨基金(IMF)が1969年に作った Special Drawing Rights (SDR)を、この際本格的通貨にしようという。

 なぜ、今この主張なのか。どのくらい現実性のある話か。

中国が、国連スティグリッツ委員会が相次いで

 本稿標題の「A super-sovereign reserve currency」という呼び方は、中国人民銀行が周小川・同行総裁名で3月23日発表した論文に現れる。中国語原文で「超主権備蓄貨幣」という。

 国連スティグリッツ委員会は同じものを「A New Global Reserve System」と呼ぶ。同委員会が検討すべき項目を列挙し、3月19日づけで国連総会宛て送った文書(PDF)に出てくる。内容は両者ほぼ同一で、スティグリッツ委員会によれば「a greatly expanded SDR」というものになる。

 「基軸通貨」という単語はこの稿書き出しに用いた如く日本語空間にこそ頻出するけれども、近い語義のkey currencyという表記は英語文脈にさほど現れない。key reserve currency、またはそれが結局のところ唯一米ドルだったのを踏まえ、単に reserve currency と呼んできた。

 準備通貨(備蓄貨幣)といい、基軸通貨と呼ばない中国人の用法は、語釈としては厳密である。

北京が言うのは「10年早い」

 なぜ今かはほぼ自明だろう。4月2日のG20ロンドン会議が目の前だ。通貨体制論議を一歩前へ進めたいと考えるほどの者は、ぜひともギリギリこのタイミングで、まとまった見解を述べておかなくてはならなかった。

 中露とスティグリッツ委員会には、時宜を逃すまいとする強い自覚があり、締め切りに間に合わせる計画性と俊敏さがあった。文書の一片、発言の一つとしてない国とは雲泥の差がつく。