昨年9月15日、1つの論文が日本超音波医学会誌に発表され、専門家の間で大きな話題となった。それは、ある検査によって脳梗塞や心筋梗塞を事前に予測できるというものだ。論文を提出したのは、福岡県にある真島消化器クリニック院長の真島康雄氏。

真島康雄(まじま・やすお)
1950年長崎県生まれ。久留米大学医学部卒業。85年に肝腫瘍細径生検針Majima needleを開発。94年には台湾に肝がんの診断と治療の技術指導に招聘され、その功績に衛生局局長より「華陀再世」の書を贈られる。現在、真島消化器クリニック(福岡県久留米市)の院長。趣味のバラ栽培では、常識を覆すバラの完全無農薬栽培を実践し『Dr.真島康雄のバラの診察室』(Benesse)を上梓

 脳梗塞や心筋梗塞などの原因としては、高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病などが知られているが、いずれもゆっくりと進行するものばかりで、突如襲ってくる脳梗塞や心筋梗塞の危険を明確に知らせてくれるものではない。もし、発症のリスクを「目に見える形」で知ることができれば、予防には大きな力を発揮するだろう。

 脳梗塞や心筋梗塞の発症メカニズムについて確認しておこう。犯人は「血管プラーク」。日本語では「粥腫」と呼ばれる、お粥のようにじゅくじゅくした脂肪の塊。血管内膜にへばりついて、血流を悪くする。血中のLDLコレステロールや中性脂肪にさらされ続けることによって血管内膜に徐々に堆積されていく。

脳梗塞を予測できる重要なポイントとは?

 血管プラークが大きくなると、血管が傷つき血栓を生み出し、それが流れ出て脳の血管を塞ぐと脳梗塞、心臓の血管を塞ぐと心筋梗塞を引き起こす。また、血管プラークは堆積して20年から25年経過すると石灰化して硬くなり動脈硬化を引き起こし、発症率を高めてしまう。

 プラークの堆積具合を調べるためには、血管を直接診るしかない。細い管を血管に差し込んで検査するカテーテル検査ならば可能だが、体への負担が大きすぎる。そこで有用なのが、体の外から専用器具を当てるだけで簡単に調べられるエコー検査だ。

 これは、今までも行われてきたが、診るポインは左右の頸動脈の2カ所が一般的だった。ところが、この場所にプラークの堆積が認められない場合でも脳梗塞や心筋梗塞を発症するケースが多々あり、その精度に対する期待は低く、補助的検査としての位置づけしかなかった。

 今回、真島医師は、脳梗塞と心筋梗塞に密接に結びついているあるポイントを発見したのだ。それは、心臓に最も近い右鎖骨下動脈の起始部。頸動脈よりも血管が太くカーブもあり、さらに分岐している箇所なので、川の流れに例えるとゴミが溜まりやすい場所だ。

 このポイントを発見した背景には、現場での長年の経験の積み重ねがあった。脳梗塞や心筋梗塞を発症した患者さんを診ると、頸動脈には異常が認められないケースが数多くあったにもかかわらず、右鎖骨下動脈の起始部には非常に高い確率で大きなプラークが認められたのだ。