(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年12月7日付)
読者の皆さんは、今年第3四半期(7~9月)に年率換算で5.2%に達した米国の目覚ましい経済成長率についての冷静で正確なフィナンシャル・タイムズ(FT)の報道を見かけたかもしれない。
ここでは、11月に起きたことを先取りしてお伝えする。
急成長やソフトランディング(軟着陸)の話など忘れていい。米国経済はこの1カ月だけで、年率換算で30%前後も縮小した。
あまりに大きなマイナス成長で、ジョー・バイデン大統領の命運も尽きたに違いない。恐らくはアメリカンドリームの終焉も告げている——。
市場為替レートでの経済比較が大流行
心配しなくてもいい。筆者は正気を失ったわけではない。上記の計算は事実だが、フェアではない。
ここでは大して伸びなかったと思われている11月の米国経済の動向を抜き出し、市場為替レートを使って米国の国内総生産(GDP)を変換してユーロ建てや人民元建てで算出した。
そして、その結果を年率換算にした。この結果をもたらした原因は、11月の1カ月間で3%近く下げたドル安だった。
これは経済規模を比較するバカげた方法だと考えるのが妥当だが、もっと分別があるはずの人々の間で大流行している。
元イングランド銀行(英中銀)総裁のマーク・カーニー氏を例に取ろう。
同氏は、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票の前には英国経済の規模がドイツ経済の90%だったが、2022年の暮れには70%に縮小していたと語った。
この変化は英ポンドの相対的な下落によって引き起こされたものだ。