――総統候補4人のうち、後ろ盾となる政党を持たない郭台銘氏がキャスティングボートを握る可能性は?

 先日、郭氏の連署運動の現場を取材しました(注:郭氏は無所属のため、出馬には一定数の有権者からの署名が必要となる)。約29万人の署名が必要なのですが、10月1日の時点で20万人台でしたので、伸び悩んでいるなと感じました。

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 10月4日にようやく規定数を達成して、総統選挙への参加が正式に認められ、6日時点で30万人を超えましたが、当初は100万人を突破すると豪語していただけに、この数字には本人も満足していないのではないでしょうか。政権への道はそう甘くはありません。政治家としての実績や政党に所属したことがない企業家の郭氏に、有権者が台湾の未来を託すことはないと考えます。

――そもそも郭氏の出馬理由については様々な憶測が飛び交っています。中には、民進党を当選させたい意向を固めたアメリカから「選挙を撹乱させよ」という密命を受けて立候補したなどという説もあります。

 郭氏の目はアメリカではなく、むしろ中国に向いていると思います。現在の選挙活動は、中国側に対して自分の影響力を見せるいいパフォーマンスになります。彼にとって当選するかどうかは二の次で、中国寄りの政策を並べて、ある程度の支持層を得られた、ということを中国側に見せつければ成功です。そうすることで、中国国内にある自身の巨大な企業資産を守り抜く。そこへ全神経を傾けていると見るべきです。

 形勢次第では、11月のどこかのタイミングで総統候補を辞退する可能性もあるのではないかと思います。

絶妙なバランスを取るための分裂投票

――世論調査でトップを走り続ける与党・民進党の頼清徳陣営ですが、10月10日の国慶節(中華民国の革命記念日)における蔡総統最後のスピーチでは、中国を刺激する発言は消え、平和路線と現状維持を強める党の姿勢が表れました。

 具体的には、先月進水式が行われた国産潜水艦の完成で抑止力が高まったと冒頭で強調し、年金改革や住宅政策などが成果を上げた、グリーンエネルギーの発電量が原発を上回った、GDP(域内総生産)がこの7年で17.5兆台湾元から23兆台湾元に成長したなどとアピールしました。その一方で、中国批判は影をひそめ、北京当局との平和共存の道を強調しました。

 注目される野党同士の連携が進まない現状で、頼陣営にはやや余裕があるようにも見えます。

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