家庭の問題を家庭に委ねると問題が見えにくくなるため、フランスでは子育てや教育を親任せにはしない

 岸田政権は「異次元の少子化対策」を掲げ、6月に「こども未来戦略方針」を閣議決定した。10月から始まった児童手当の拡充では、所得制限の撤廃、給付対象を高校生までに拡大、そして、第3子以降の給付額の増額などが盛り込まれている。
 
 少子化や子育て支援の文脈で、しばしば議論の引き合いに出されるのはフランスの施策だ。はたして、フランスはどのように子育てや福祉に取り組んでいるのか。日本の子育て施策とは何が違うのか。『一人ひとりに届ける福祉が支える フランスの子どもの育ちと家族』(かもがわ出版)を上梓したフランス子ども家庭福祉研究者の安發明子(あわ・あきこ)氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書を読んで、フランスの子育て政策はたいへん充実しているという印象を受けました。あらためて、フランスではどのような子育て支援が提供されているのか教えてください。

安發明子氏(以下、安發):フランスでは、妊娠中の妊婦健診や出産にかかる費用は無料です。義務教育は3歳から始まり、大学や専門学校も基本的には無料。一部有料のところもありますが、有料と言っても、年間に3万円程度です。

 また、保育に関しても、収入に応じて収入の一割の金額で受けることができます。生後2カ月半から、収入がない人も含め、誰でも保育サービスを使うことができる。子どもを産み育てるということが負担にならないようになっています。

 保育サービスも様々な形があります。最も選ばれているのは、資格を持った人が自宅で数名の子どもを預かる「保育アシスタント」と呼ばれるサービスです。ご近所の保育アシスタントに預けることができるし、労働時間が変則的な人にとっても便利なサービスです。

 フランスでは、集団保育よりも少人数保育のほうが手厚いという価値観がありますが、日本のような集団を同時に見る保育園もありますし、ベビーシッターに家に来てもらうということも可能です。

 ただ、3歳から義務教育が始まるので(3歳から16歳までがフランスの義務教育期間)保育にあたる期間は短く、保育も「預かり」の場ではなく積極的な幼児教育の場として位置付けられています。

 妊娠4カ月から2歳までの間が、子どもの脳が最も活発に発達する時期であり、この間に積極的な教育や十分な刺激を与えられている子とそうでない子では、その後の人生で大きな差が出ることが様々な研究から明らかになっています。

 発達障害を含め、いろんな問題が思春期になって出てきたとしても、それは胎児から2歳までの間の影響が関係する(フランスでは発達障害という言葉は使われない)。

 こういった観点から、保育園でも、幼児エデュケーターや、医療面を担当する小児看護補助、子どもの発達状況に合わせた遊びを提供するアニメーターなど、様々な専門職の人たちが配置され、充実した幼児教育を提供しています。

 さらに、心理士と医師が週1回、半日ずつ来て子どもたちに話しかけ、子どもたちの健康状態を把握します。

 たとえば、親も気づかない障害の可能性なども、専門家がいち早く検知して、必要な検査などを受けるよう親にアドバイスする。日本と比較すると、かなり積極的に幼児教育が行われ、子どもたちの権利が守られているか確認しています。

──フランスでは、集団の中の自分ではなく「個」としての自分を持てるようになることが重要視されている、教育に関しても「個」を確立することを目標にしていると書かれています。