米オープンAIが開発した生成AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」の能力と汎用性の高さに、大企業の経営者や研究者が舌を巻いている。さらなる研究開発が進めば、仕事のあり方が大きく変化するだけでなく、今の仕事の多くがAIに代替されると言われている。
「AIでなくなる仕事」と指摘されている各業界の「中の人」たちへのインタビューを通じて、人類とAIの共生を考える連載「直撃!その仕事、AIでなくなる?」。第5回は一般社団法人日本翻訳協会・堀田都茂樹代表理事に話を聞く。
堀田氏は1974年に翻訳家養成講座のバベルグループを創業し、以降も日米での翻訳大学院の運営や月刊誌「翻訳の世界」を創刊するなど、それまでは徒弟制度だった翻訳家の世界を大衆化させた第一人者だ。翻訳家はChatGPTに駆逐されるのか。
(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)
第1回:ChatGPTでコールセンター消滅?協会会長「文字での対話は敗北、音声なら…」
第2回:チャットGPTでデータ入力業界は消滅?協会会長「知ったかぶりAIに頼れない」
第3回:チャットGPTでコピーライター消滅?元電通マン「天然キャラは発想のヒント」
第4回:チャットGPTで秘書消滅?メール代筆は完敗でも「社長夫人の機嫌は取れない」
すでに機械翻訳が活用されている分野とは
──単刀直入に質問します。ChatGPTの登場により、翻訳家の仕事はなくなりますか?
堀田都茂樹氏(以下、敬称略):一言に「翻訳」と言っても、色々な仕事があります。「出版物」という分野に絞っても、小説などのエンタメから、技術書や知的財産関連など、ビジネス色の強いものまで、多岐にわたります。
こうした「文章翻訳」がChatGPTに置き換わるか、と聞かれると、答えは「半々」という感触を今のところ持っています。
──どういった分野の翻訳業が代替される可能性があるのでしょうか。
堀田:特許や金融IR、メディカル、技術関連などの文章翻訳は翻訳家の仕事が大幅に縮小する可能性があります。これらの分野では元々、機械翻訳が台頭した当時から、翻訳会社各社が莫大な投資をして機械翻訳を活用した自動化を進めていたのです。
ChatGPTをはじめとした生成AIも機械翻訳にルーツを持っています。機械翻訳の機能を一言で表現すると「置き換え」だと言えます。日本語と英語で「対(つい)」に単語・文章をデータベースに大量に学習させ、瞬時に出力させているのです。特許やIR、メディカル・技術といった分野の翻訳作業は専門用語が頻出しますから、データベースを引っ張ってくることで仕事がものすごく楽になるのです。
ChatGPTは専門的な単語を学習しているわけではありませんから、これらの分野で直接業務に使うことは難しいと思うのですが、機械翻訳が翻訳業務の仕事を大幅に助けていることは間違いありません。
翻訳という仕事の難所は、完成までにものすごく時間がかかる、というところにあります。「これはどうやって訳すべきだろう」と悩んでいるところに、機械翻訳に聞いてみて、とりあえずアウトプットしてみる。最後に人間がチェックする、という使い方はすでに一般的になっているのではないでしょうか。