(英フィナンシャル・タイムズ電子版 2023年8月31日付)

中国元がドルに取って代わることができるのだろうか

 8月下旬に開催されたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議がバックミラーから消えつつある。

 それに伴って、幸いなことに、この新興5カ国によって発行される新通貨のかなり非現実的な議論も後退しつつある。

 共通通貨の狙いは米ドルの王座を奪うことだった。

 米ドルの世界的支配に対する挑戦を観察している政策立案者は、既存の通貨からの現実的な挑戦に目を戻すことができる。

 中国人民元がそれだ。

 欧州諸国の政府は1960年代以来、ドルが担っている国際的な役割をうらやみ、共通通貨ユーロがそれに取って代わることを期待してきたが、その願いは成就していない。

 それに対し、中国による挑戦は急激に現れた。その理由も切迫したもので、米国がドルを兵器化したためだった。

 だが、中国は今後、自らの根本的な問題に由来する深刻な困難に直面するだろう。欧州の伝統的な弱点とは異なるが、どちらかと言えばもっと根深い困難だ。

準備通貨、貿易通貨としてのドルへの羨望

 ドルに挑もうとする欧州の願望――世界金融危機の後、2010年にフランスのニコラ・サルコジ大統領(当時)が力強く表明している――は主に、準備通貨および貿易の決済通貨としてのドルの地位への羨望に基づいているようだ。

 これは1973年のブレトン・ウッズ体制崩壊(固定相場制から変動相場制への移行)をも乗り越えてドルが担い続けている役割だ。

 欧州諸国のぼやきは続く。