霞が関にある法務省旧本館(写真:西村尚己/アフロ)

(黒木亮・作家)

 去る8月11日、英国の裁判所が日本政府にとってショッキングな決定を出した。英国人強盗犯の身柄を引き渡さないと決定したのだ。理由は、日本の捜査機関(警察と検察)が長期間にわたって被疑者の身柄を拘束し、自白を強要し、人権を侵害するという、いわゆる「人質司法」への懸念である。

「人質司法」に関しては、従来から国際的批判が強かったが、今回、先進国の中でも進んだ人権保護や法制度を持つ英国の裁判所が決定を出したことで、日本政府、法務省・検察に鉄槌が下された格好である。一方、元日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告は、逃亡先のレバノンで、自分の主張が追認され、日本への引き渡しの可能性が下がったことに、高笑いを禁じ得ないはずだ。

凶悪強盗犯なのに日本に引き渡されない理由

 当該強盗事件は2015年11月に東京・表参道の高級宝石店「ハリー・ウィンストン」に、英国籍の3人の男が押し入り、警備員を殴って大怪我をさせ、ダイヤの指輪など46点、1億600万円相当を奪って逃走したというものだ。3人は事件の2日後に出国したが、警視庁は防犯カメラの映像などから身元を特定し、2017年に逮捕状をとり、国際刑事警察機構(ICPO)を通じて指名手配していた。

 今回、ロンドンのウェストミンスター治安判事裁判所が身柄引き渡しを認めなかったのは、3人のうちの1人、ジョー・チャペル容疑者(37歳)で、2021年9月にロンドン南東部のリュイシャムで職務質問を受け、国際指名手配されていることが分かり、逮捕されていた。

 この男は、オランダから持ち込んだ数百トンのコカインやアンフェタミン(覚せい剤)を売り捌いた罪で2009年に有罪判決を受け、7年間服役した前科がある。共犯だったジェフリーという名の父親は14年の刑をくらっているので、筋金入りの悪党一家である。