ウクライナ侵攻後、ゼレンスキー大統領のファッションをまねたミリタリー系のアパレル商品を販売するビジネスが増えた(写真:AP/アフロ)

 ロシアがウクライナに侵攻してから1年半近くになる。多くのウクライナ人が「ディアスポラ(移民)」となり国外で避難民として生活している。キーウに生まれ育ち、日本で博士号を取得した作家・ジャーナリストで研究者のオリガ・ホメンコ氏もその一人だ。このほど、ロシアが侵攻した「2月24日」を境に一変したウクライナ人の生活をまとめたエッセイ集『キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人』(中央公論新社)を上梓した。ホメンコ氏は、戦争の中のウクライナ人の生活をどう見たか。本書から、戦時下でビジネスはどう変化したかを描いた節を抜粋して紹介する。(JBpress)

戦時下のさまざまなビジネス

 戦争のときも衣食住は必要だ。高齢者や子どもの世話も必要だから、そのためにはお金を稼がないといけない。戦時下の消費行動とビジネスのあり方、そして経営者が実際にどのように取り組んでいるかは非常に興味深いものだ。

オリガ・ホメンコ(Olga Khomenko) オックスフォード大学日本研究所英国科学アカデミーフェロー。ウクライナ・キーウに生まれる。キーウ国立大学文学部卒業。東京大学大学院地域文化研究科で博士号取得。ハーバード大学ウクライナ研究所客員研究員、キーウ経済大学助教授、キーウ・モヒラ・アカデミー助教授、キーウ・モヒラ・ビジネススクール准教授などを経て現職。歴史研究者、作家、コーディネーターやコンサルタントとして活動中。 (写真:Valentyn Kuzan)

 侵攻が始まると、皆家族を西部や国外に避難させるのに必死だったが、会社を経営している人は特に最初の1カ月間がより大変だった。従業員、設備、施設を守る経営者の責任もあるからだ。戦争は免責事項に当たるから、被害を受けても保険では補償されなくなる。個人の持ち物もそうだが、会社のものは特にそうだ。そのため、多くの会社は守るのに必死で、西部に避難するところも多かった。

 ウクライナのビジネス業界の統計によると、今回の侵攻で4分の1の企業が倒産しているという。倒産しなくてもレイオフ(整理解雇)した会社も少なくない。この1年間、そのような話をたくさん聞いた。一方、逆に1人も解雇せず尊敬を集めた社長がいるという話もあった。どの会社も、営業を再開するのに必死で、まずは2月から4月の段階で会社と従業員を守り、事業の再開をめざした。

 また従業員が徴兵されたり出国したりして、人材をどのように確保するかに悩んだ会社も多かったようだ。ヨーロッパ・ビジネス・アソシエーションによると、去年4月の段階で28%、6月に47%の会社が営業を再開した。その次の段階として、侵攻される前の状態や利益を取り戻すことに努めた。