「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景より、《ノルマンディーの12か月》2020-21年 作家蔵 ©︎David Hockney

(川岸 徹:ライター・構成作家)

60年以上にわたり、絵画、ドローイング、版画、写真、舞台芸術など、多彩な作品を発表し続けてきた現代美術家デイヴィッド・ホックニー。日本では27年ぶりとなる大規模個展「デイヴィッド・ホックニー展」が東京都現代美術館で開幕した。

コロナ禍を経て、念願の開催

 7月15日、日本では27年ぶりになるデイヴィッド・ホックニーの展覧会が開幕した。それから10日余りが経過したが、日に日に熱気が高まっていると実感している。SNSにはコメントがあふれ、その大部分が好意的な内容。「凄まじいパワーを受けてきた」「スケールがすごいしめちゃステキやった」「90mの新作、圧巻過ぎ」など。会場は夏休みシーズンということもあり、開館直後から閉館まで混雑が続いているらしい。

 日本のみならず、海外でもホックニー人気は凄まじい。2018年11月に開催されたクリスティーズ・ニューヨークのオークションでは、ホックニーの代表的モチーフ“プール”と“2人の人物”を同時に描いた《Portrait of an Artist (Pool with Two Figures)》という作品が約104億円で落札。これは当時、現存するアーティストとして過去最高の落札額となった。

 世界各地で相次いで開催されている展覧会も、例外なく大盛況。特に2012年のロイヤル・アカデミー(ロンドン)での個展、2017年のポンピドゥー・センター(パリ)での個展は、いずれも60万人以上の来場者数を記録した。

 なぜ、デイヴィッド・ホックニーはこれほど世界の人々を魅了するのだろうか? その答えは「愛」だろう。

 実は今回のデイヴィッド・ホックニー展、当初は2021年に開催されるはずだった。だが、新型コロナウイルスの流行により無期限延期。ホックニーもまた、コロナによる影響を強く受けたアーティストのひとりだったのだ。

 しかし、ホックニーはコロナ禍でも制作の手を休めない。自身が暮らすノルマンディーで描き上げた花の絵を、オンライン上に投稿。その絵には「春が来ることを忘れないで」というメッセージが添えられていた。この絵に、どれだけの人が愛を感じ、希望を見出したことだろうか。

 さらにホックニーはコロナ禍にこんな言葉も残している。「今回のことはそのうち終わるでしょうが、その先は? 私たちは何を学んだのでしょう? 人生で本物なのは、順に挙げると、食べ物と愛、それだけです。芸術の源は愛なのです。私は人生を愛しています」。

 そして、コロナ禍の収束が見えてきた頃、日本での展覧会の予定が復活。2023年に開催される運びとなったのだ。

「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景より、左から《花と花瓶》1969年、《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》作家蔵 ©︎David Hockney

 オンライン上で公開された花の絵、見逃した人も安心を。今回の展覧会の冒頭に飾られている。タイトルは《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》。すっと伸びるラッパスイセンと鮮やかな色彩が印象的。目の当たりにすると、実物に出合えたという感動で涙が出そうになる。