2023年に生誕100周年を迎えた写真家ソール・ライター。「カラー写真のパイオニア」として世界中の人々を魅了し、日本でも新たなファンを増やし続けている。彼の原点と軌跡に迫る展覧会「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」が開幕した。

文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」展示風景

ソール・ライターが日本人に愛される理由

「この写真、なんかソール・ライターっぽいね」。そんな会話が成り立つくらい、写真家ソール・ライターの名はここ10年程度の間に一気に定着した。

 2015年にドキュメンタリー映画『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』が公開され、2017年にはBunkamura ザ・ミュージアムにて日本初となる回顧展「ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展」が開催。さらに2020年にはその続編となる展覧会「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」が同じ会場で行われたが、残念ながらコロナウイルス流行の影響で会期中に休止となってしまった。

ソール・ライター 《無題》 撮影年不詳 ©Saul Leiter Foundation

 そして、ソール・ライター生誕100年にあたる2023年。Bunkamura ザ・ミュージアムは前回の途中休止の無念を晴らすかのように、再び展覧会の開催に挑んだ。7月8日に開幕した展覧会「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」だ。Bunkamuraの長期休館(オーチャードホールを除く)に伴い、渋谷ヒカリエ9Fのヒカリエホール ホールAを間借りして行われている。

 2017年からわずか6年間で3回目となるソール・ライター展。かつてこれほど短い期間で大型展覧会が開催された写真家がほかにいただろうか。なぜ、ソール・ライターはこんなに日本で人気があるのだろう。

ソール・ライター 《無題》 撮影年不詳 ©Saul Leiter Foundation

 人気の理由は、「ソール・ライターの日本文化へのリスペクト」だろう。ソール・ライターの日本びいきは半端なものではない。彼は日本美術を愛好し、特に浮世絵を好んだ。葛飾北斎、歌川広重、鈴木春信、東洲斎写楽、鳥居清長の和綴本を集め、喜多川歌麿についてはクリスティーズのオークションでオリジナル木版の和綴本を手に入れている。

 浮世絵だけでなく、日本の文学や音楽も愛した。『枕草子』『更級日記』『好色一代女』といった古典や岡倉天心の茶の本や俳句の本を愛読。彼のレコードコレクションには歌舞伎の長唄や琴のレコードが含まれている。

ソール・ライター 《無題》 撮影年不詳 ©Saul Leiter Foundation

 日本人以上ともいえる日本趣味によって、ソール・ライターの写真には和の要素が映し出されるようになった。浮世絵を思わせる極端な遠近法、雪の街角や雨傘をさす女性といった四季の表現、掛軸のように斬新で垂直な画面構成……。光は柔らかく、日本情緒といえる美が表現されている。