北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議が2023年7月11~12日、リトアニアの首都ビリニュスで開催された。
主要日程としては7月11日のNATOの北大西洋理事会(NAC:North Atlantic Council)、12日午前のNATOパートナー・セッションおよび12日午後の「ウクライナ支援に関する共同宣言」発出式典が開催された。
北大西洋理事会(NAC)には、アイスランド、米国、イタリア、英国、オランダ、カナダ、デンマーク、ノルウェー、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク、ギリシャ、トルコ、ドイツ、スペイン、チェコ、ハンガリー、ポーランド、エストニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、アルバニア、クロアチア、モンテネグロ、北マケドニア、フィンランドの加盟31カ国の首脳が参加した。
NACは、NATOにおける最高意思決定機関である。
NATO加盟国の代表によって構成され、NATO事務総長が議長を務める。構成員は加盟各国の代表であり、通常は各国の常駐代表(いわゆるNATO大使)で開催されるが、外務・国防の閣僚レベルや首脳レベルで開催されることもある。
NACは、全会一致によって評決が行われ、多数決での決定はなされない。NACは、7月11日の討議を踏まえて共同声明を採択・発出した。
NATOパートナー・セッションには、NATO加盟国31か国、被招待国としてスウェーデン、NATOの主要パートナー国・機関として日本、豪州、ニュージーランド、韓国、EUの首脳等が出席した。
同セッションにおいて、パートナー国として日本の岸田文雄総理が最初に発言した。
「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分」であり、欧州大西洋とインド太平洋の同志国の連携をより強固なものとする必要性を訴えた。
「ウクライナ支援に関する共同宣言」の発出式典には、G7首脳およびウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が出席した。
冒頭、岸田総理がG7議長として発言し、「ウクライナ支援に関する共同宣言」を発表できることを嬉しく思う旨述べた。
さて、今回の首脳会議の焦点は、ウクライナのNATO加盟問題と加盟までの間のウクライナの安全保障問題であった。
ウクライナのNATO加盟問題では、ウクライナは「ロシアとの和平後の加盟」の確約を求めた。
しかし、ロシアを過度に刺激すること望まない米独の慎重論を反映し、7月11日に発出した共同声明では、NATOは「加盟国が同意し条件が満たされた場合」に実現を確認するにとどめ、明確な道筋は示さなかった。
ゼレンスキー大統領は、7月12日の記者会見で、「戦争継続中の加盟の難しいことは理解している」と述べる一方、「ウクライナにとって最善の安全の保障はNATOだ」と述べ、早期加盟を重ねて求めた。
一方、NATO加盟までの間のウクライナの安全保障問題では、NATOは当初、相互防衛義務がなくても米国がイスラエルに対し長期的に膨大な軍事支援を継続して支える「イスラエル型」を参考にウクライナとの安保協定の締結を模索した。
しかし、膨大な国庫支出を長期で求められる協定には「加盟国一部の反対」があり、代わりにG7が長期的に支援する安全保障の枠組みが設けられた。
7月12日午後、G7首脳およびウクライナのゼレンスキー大統領が出席して、「ウクライナ支援に関する共同宣言」の発出式典が開催された。
共同宣言には、次のように記載された。
「本日、我々は、それぞれの法律上および憲法上の要件に従って、この多国間枠組みと整合的な二国間の安全保障上のコミットメントおよび取り決めを通じ、主権および領土一体性を守り、経済を再建し、市民を保護し、欧州・大西洋共同体への統合を目指すウクライナに対する我々の長期にわたる支援を明確にするために、ウクライナとの交渉を立ち上げる」
各国は宣言に基づき、ウクライナへの安全保障支援に関しウクライナとの二国間協議を始める。
また同宣言には「この取り組みへの貢献を望む他国は、いつでもこの共同宣言に参加することができる」と記載されており、G7以外の国もこのウクライナ支援の枠組みに参加すると見込まれている。
本稿では、今回の首脳会議の焦点であったウクライナのNATO加盟問題と加盟までの間のウクライナの安全保障問題について、それらの歴史的経緯や同会議における結論について述べてみたい。
初めにウクライナのNATO加盟を中心としたウクライナとNATOの関係史について述べる。
次にウクライナのNATO加盟問題に関するNACの結論について述べる。
次にウクライナの過去の安全保障の枠組みについて述べる。最後にウクライナの安全保障問題に関するG7の結論について述べる。