- ルーブルの下落を受けて、ロシアでは現金や預金で外貨を持つ国民が増えている。
- 人民元の外貨預金やトルコ・リラを経由してのドルやユーロ保有が主な経路だ。
- ウクライナ侵攻が長引くロシア。「脱ルーブル化」は社会の不安定化を示す一つの現象だろう。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
6月23日、民間軍事会社であるワグネルが、ロシア南部ロストフ州で武装蜂起を起こした。同社を率いたエフゲニー・プリゴジン氏は、ロシアの首都モスクワまで200キロの地点に部隊を進軍させたが、隣国ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の仲介を受け、結局、6月25日に武装蜂起を取り止めることになった。
ロシア連邦保安局(FSB)は反乱を呼びかけた容疑でプリゴジン氏の捜査に着手したが、一方でプリゴジン氏はルカシェンコ大統領の庇護の下、ベラルーシに滞在しているとされる。
いずれにせよウクライナとの戦争の長期化を受けて、ロシアの政情は着実に不安定化しているようだ。ワグネルの武装蜂起は、それを端的に物語るものだった。
そうした政情不安は、社会不安の高まりと表裏一体の関係でもある。実際にロシアで社会不安が広がっている様子は、家計の現預金の動きからも窺い知ることができる。
ロシア中銀が公表する家計部門の「金融資産・負債統計」を確認すると、現預金に占める外貨の割合は、直近5月1日時点で26.5%と、7カ月連続で上昇した(図表1)。
【図表1 現預金に占める外貨の割合】
ロシアがウクライナに侵攻した昨年2月から3月にかけても、通貨ルーブルが大暴落した影響を受けて預現金に占める外貨の割合は急上昇した。その後、ルーブル相場は「V字回復」したが、今年に入って下落が続き、ウクライナ侵攻前の水準よりも安値圏にある。
そうしたルーブルの弱さが、ロシア国民のルーブル離れを呼んでいるのだろう。
さらに注目すべきは、預金よりも現金に占める外貨の割合が急上昇していることだ。この動きは、ロシア国民が、外貨を預金ではなく現金(紙幣)で保有することを望んでいることの証左といえよう。
外貨預金の引き出し制限が強化されることを念頭に、ロシア国民が資産防衛の観点から、外国紙幣の保有高を増やしているのではないか。
それでは、ロシア国民は、米ドルやユーロなど、いったいどの外国紙幣の保有高を増やしているのだろうか。