広島の平和記念公園を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領(5月21日、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 今回のG7広島サミットは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の参加により歴史的なサミットとなった。

 ゼレンスキー大統領にG7広島サミットへの参加を強く勧めたのは、欧州連合(EU)のウルズラ・フォンデアライエン委員長である。

 フォンデアライエン氏は5月20日午後、NHKの単独インタビューに応じ、「私は、ここ10日間のうちに何度かゼレンスキー大統領に会っていて、日本に来て、平和の都市である広島で各国の首脳たちに会うことを強く勧めていた。こここそが、公正な平和を実現する方法を話し合うのにふさわしい場所だ」と述べた。

 筆者は、G7広島サミット成功の最大の功労者はフォンデアライエン氏であると思っている。

 さて、本題に入るが、G7広島サミットでは、覇権主義的な動きを強める中国にどう向き合うかが主要なテーマの一つであった。

 5月20日に発出された首脳声明には、「(我々は、)デカップリング(断絶または切り離し)ではなく、多様化、パートナーシップの深化、ディリスキング(リスク回避または低減)に基づく経済的強靭性と経済安全保障へのアプローチで強調する」と明記された。

「ディリスキング(De-risking)」とは米国の「デカップリング(decoupling)」という考え方を穏健化したものである。

「デカップリング」が中国との関係断絶を目指しているのに対し、「ディリスキング」は、中国のリスクを認識しているが、リスクを抑制しながら中国との関係を保持しようというものである。

 一例を挙げれば、ディリスキング政策とは、機微な技術の軍事利用が排除されない場合やそれが人権問題に関係する場合には、その貿易を規制(例えば、関税賦課、輸入規制、サービス・投資制限、域内市場へのアクセス制限など)することを意味する。

 EUにおいて「ディリスキング」を提唱しているのも、またフォンデアライエン委員長である。

 同氏(64歳)は、ドイツの元国防相で、2019年にEUの政策執行機関である欧州委員会の委員長に女性として初めて就任した。

 また、同氏は3月30日、ベルギーの首都ブリュッセルで、EUと中国の関係に関する講演を行った。3月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、同氏の同講演について次のように論評している。

「フォンデアライエン氏は、講演冒頭に、中国のロシア支持とともに習近平個人に対する批判をした」

「彼女は、ウクライナに対する残虐で、不法な侵略に距離を置くどころか、習近平はプーチンとの『無限の』友情を維持したと述べた」

「また、同氏は主としてハイテク分野について EUの対中関係をディリスキングすべきだと述べた」

「それは米国のデカップリング(分断)政策とはレトリック上は一線を画すると述べた」

「そして演説後半では、EUの対中ディリスキング政策の柱が、域内経済の強化、既存の貿易規制の有効利用、新たな防衛措置の導入、パートナー国との連携の4点にあることを説明した」

 EUの対中ディリスキング政策の4つの柱の詳細については後述する。

 さて、本稿はフォンデアライエン委員長の提唱する「ディリスキング」政策について取り纏めたものである。

 初めに米国のデカップリング政策について述べ、次にEUの対中政策の変遷について述べ、最後にEUの対中「ディリスキング」政策の4つの柱を中心にフォンデアライエン委員長の講演の要約を述べる。