紫式部(まひろ)を演じる吉高由里子さん(左)と紫式部の父、為時を演じる岸谷五朗さん(写真:京都新聞社/共同通信イメージズ)

『源氏物語』の作者、紫式部を主人公にした『光る君へ』。NHK大河ドラマでは、初めて平安中期の貴族社会を舞台に選び、注目されている。第20回「望みの先に」では、花山院の牛車に矢を放った藤原伊周(これちか)と弟の隆家が処分を受けることに。兄弟の不祥事によって、伊周の妹で一条天皇の妃である定子の運命は一転。内裏に出ることを禁じられてしまい……。今回の見どころについて、『偉人名言迷言事典』など紫式部を取り上げた著作もある、偉人研究家の真山知幸氏が解説する。(JBpress編集部)

伊周がやらかした「長徳の変」に一条天皇もあきれる

 藤原兼家から息子の道隆へと引き継がれた摂政・関白の座は、道隆の病死によって、弟の道兼へ。その道兼も数日で命を落としたことで、さらに弟の道長へと政権が引き継がれようとしていた。

 いち早く動いたのは藤原詮子(あきこ)で、弟の道長を関白にするべく、息子である一条天皇に働きかけている。一条天皇からすれば、妃である定子の兄・伊周のこともむげにはできず、葛藤があった。それでも母の意向にはあらがえず、一条天皇は伊周ではなく、道長を関白に準ずる内覧として、右大臣にまで引き上げている。

 藤原道隆が政権を握っていたときは、後継者として有力視された伊周だったが、父の死によって、潮目が変わり、8歳年上の叔父・道長に政権を奪われようとしていた。

 何とかせねば……そんな焦りは、周囲への疑心暗鬼を生みやすい。

 伊周は弟の隆家と共に「長徳の変」とのちに呼ばれる、とんでもない騒ぎを起こす。かつては天皇で今は出家の身である花山院に対して、矢を放ったというから穏やかではない。

「なにゆえそのようなことが起きたのだ!」

 今回の放送では、事件の報告を受けた塩野瑛久演じる一条天皇が、信じられないという表情で、そう尋ね返した。背景はやや複雑だが、頭が切れるロバート秋山演じる藤原実資(さねすけ)は、的確にまとめて、一条天皇にこう説明している。

「藤原伊周殿は一条邸の光子姫のもとに通っており、院もその姫に懸想(けそう)されたと、勘違いしたと思われます。院は光子姫ではなく、竹子姫のところにお通いでしたので」

「院」とは「花山院」のことだ。光子姫と竹子姫は、共にかつて太政大臣を務めた藤原為光の娘であり、二人は姉妹だった。のちに、道長の下で大納言になる公卿の藤原斉信(ただのぶ)は、二人の兄ということになる。

『光る君へ』では、藤原斉信をお笑いコンビ「はんにゃ.」の金田哲が好演。今回の放送で、道長に「院はわが妹、竹子のもとにお通いだった」と説明した。

 斉信は「伊周と隆家は終わりだな」と嬉しそうに話して、道長にたしなめられているが、まさにその言葉通りの展開となった。