水利用の大幅減少、「東京砂漠」とは何だったのか?

 まずは「利水」から調べることにした。八ッ場ダムを管理する利根川ダム統合管理事務所に「八ッ場ダムで確保した水が本当に活用されているのかを確認したい」と問い合わせると、「分からない」という。代わりに、国土交通省の関東地方整備局河川部水政課から「水利権の許認可は継続している」との回答を受け取った。

「水利権」とは河川法に基づく水を使ってもよい権利だ。水政課の回答は、国が許可した権利が持続されているという意味に過ぎない。活用実態は水利権を許可された自治体に聞くしかない。

 6都県のどこに聞くべきか。2009年9月の政権交代で前原誠司国土交通大臣(当時)が「八ッ場ダム中止」を宣言した際、最も声高に建設続行を求めたのは、ご当地群馬県の大澤正明知事(当時)と石原慎太郎都知事(当時)だった。この2つに尋ねることにした。

 群馬県水道課は、水道と工業用水の両方を担当する。「八ッ場ダムの水は活用されているでしょうか。群馬県は毎秒0.35立方メートル(m3)の工業用水と毎秒2m3の水道用水を求めていたのですが」と問い合わせると、「何を見ながら仰っているのでしょうか」と、それらの数字を初めて聞くような反応だった。

 私が見ていたのは、中止宣言の3カ月後、つまり2009年12月、国土交通省が非公開で始めた「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」が決めた「ダム検証」の一環で行われた「八ッ場ダム建設事業への利水参加継続の意思確認結果」だ。当時、栃木県を除く5都県と藤岡市や千葉県内の広域水道企業団などがダム(利水)事業への参加継続意思「有」と回答。国土交通省は、自治体の意思を確認した形式を踏んで事業継続へと進んだ。

「何を見ているのか」にそう答えると、時間を置いて、担当者から「水に色はないので、毎秒2m3を工業用水に割り振っている」との回答が来た。「割り振っている」の意味を問うと「(工業用水として使いたいという)新たな利水者が現れた訳ではない」という意味だという。つまり、工業用水は使われていない。また、水道水については「県内の各自治体、前橋市、高崎市、榛東村、吉岡町、前橋市、桐生市、伊勢崎市、渋川市、玉村町に聞いて欲しい」という。

 しかし、たらい回しされずとも手元に答えはあった。県は八ッ場ダムが完成した2020年に「群馬県水道ビジョン」を取りまとめていた。