これに対して税関側は(税関もロシアの「法執行機関」である)、ウィーン条約の条文に加えて、ロシアの法律の条項を細かく引用して、自分たちの行為が法に基づく正当なものであることを主張するのである。
総領事館員の税関検査の免除を定めるウィーン条約第50条3項には、ただし書きとして「輸出入が接受国(この場合はロシア)の法令によって禁止されているか、接受国の検疫法令によって規制されている物品が荷物の中に含まれていると信じる十分な理由がある場合には」検査を行ってよいとあるからである。
このようにロシアという国の行政機関は、日本以上に法律にうるさい反面、その法律を縦横無尽に利用して自分たちのやりたいことをやるところがある。ロシアの政治権力にとって、法律とは、権力の濫用を防ぐためのものではない。むしろ、「法執行機関」が自らの行動を正当化するための「道具」という側面があるのだ。
巧みな理論武装
そしてそれは、国際政治の場においても全く同様である。ロシア外務省は、国際条約の条文に非常に精通している。交渉をしていても、何年に締結された何という条約に、何々と書かれているとか、何年前の交渉の議事録によれば日本側はこう言っている、というようなことを細かく指摘する。要は、理路整然とした口喧嘩が非常に巧みなのだ。
ウクライナ侵攻についても、誰はばかるところなく堂々と正当化の論理を展開している。いわく、ロシアはウクライナ東部地域ドンバスのドネツクとルガンスクの独立を承認し、防衛のための条約を締結した、ウクライナがドンバスを軍事的に脅かしているため軍事介入した、これは国連憲章でも認められている集団的自衛権の行使である。
またいわく、ウクライナのNATO加盟は断固阻止されなければならない、なぜならばNATOの拡大はロシアの安全保障を害するものだからである。欧州安全保障協力機構(OSCE)の各種宣言(例えば2010年12月3日のアスタナ宣言第3条)においては、加盟国は同盟や中立の自由を有するが、一方で、自国の安全保障を強化するために他国の安全保障を犠牲にしないことが謳われている。ウクライナのNATO加盟はロシアの安全保障を犠牲にするものであり認められない、といったものである。