2.同盟国に対する諜報活動

 各国とも長年、同盟国に対して諜報活動を行ってきた。これは公然の秘密である。

 そして、各国は紳士協定を結び、相手国に外交官として情報機関員を派遣し、公然・非公然の諜報活動を行っている。

 諜報活動が摘発された場合は、ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)として国外退去処分に処せられる。

 外交官の肩書のない情報機関員は、相手国の法律により厳しく処罰される。

 また、情報機関員の協力者(通常は相手国の国民)も同様に厳しく処罰される。時には死刑に処せられる。

 同盟国を諜報する理由の一つは、同盟国が裏切らないかを常に確かめておかなければならないからである。

 同盟国といえども、時には敵対者になる。その変化の兆しをつかんでおかなくてはならないのである。

 味方の裏切りは時に致命傷となる。関ヶ原の戦では、小早川秀秋の裏切りによって石田三成率いる西軍が敗れ、徳川家康の東軍が勝利した。

 19世紀に英国の首相と外相を務めたパーマーストン卿は、「国家には永遠の友も永遠の敵もいない。あるのは永遠の国益のみ」という言葉を残している。

 また、同じ英国の首相を務めたウィンストン・チャーチルは、「自国以外はすべて仮想敵国である」と語ったという。

 同盟国に対して諜報活動を行うもう一つの理由は、相手国を誠実でいさせるためである。

 仮に不誠実であったとしても、諜報活動は彼らの嘘がいずれ露見するということを知らしめることができる。

 すなわち監視することにより相手を牽制するのである。諜報活動は同盟国に対する外交的手助けにもなるのである。

 翻って、日本は唯一の同盟国である米国に対して諜報活動を行っているのであろうか。

 日本語では英語の「information」も「intelligence」も情報と言う。しかし、一般に、欧米のインテリジェンス機関はスパイ機関を意味する。

 スパイ機関とは諜報・謀略・宣伝、時には相手国の要人の暗殺まで行う組織である。米国では相手国の要人の暗殺には大統領の許可が必要である。

 1976年2月、ジェラルド・R・フォード大統領は行政命令11905号により大統領の許可のない政治的な暗殺を禁止した。

 話は変わるが、かつて日本共産党国際部長であった緒方靖夫氏宅の電話が公安警察官によって盗聴された事件があった。

 通信傍受には司法的傍受と行政的傍受がある。

 今は、犯罪捜査のための司法的傍受だけが法律で認められているが当時は司法的傍受も認められていなかった。

 当時の警察庁長官は参議院予算委員会において「警察におきましては、過去においても現在においても電話盗聴ということは行っておりません」と答弁し、組織には責任がなく、盗聴を行った警察官個人の責任であるとした。

 日本には、公務員が海外においてスパイ活動をすることを認めた法律は制定されていない。

 すなわち、日本には真の意味のインテリジェンス機関は存在せず、かつ日本は海外においてスパイ活動を行っていない。

 では、日本は米国を信頼して、追随していくしかないのであろうか。