(北村 淳:軍事社会学者)
アメリカ統合参謀本部議長マーク・A・ミリー陸軍大将はアメリカ連邦議会において「中国とロシアはアメリカの安全保障を脅かす能力を手にしているものの、中国やロシアとの直接的軍事衝突は回避不可能なわけでもないし、差し迫っているわけでもない」と証言した。そして「現在のアメリカにとって、中国とロシアと同時に軍事衝突することは至難の業である」とも付け加えた。
かねてよりバイデン政権の対中強硬姿勢は見せかけに過ぎないと批判していた米海軍などの対中強硬派の人々は、バイデン政権にすり寄っている(と対中強硬派が非難している)ミリー大将が上記のような証言をしたことに対して、怒りを顕にしている。
なぜならミリー大将の証言は、中国の軍事的脅威に対して最前線に位置している米軍インド太平洋軍司令官や太平洋艦隊司令官などが過去数年間にわたって繰り返し警告してきた「米中軍事衝突の危険性」についての見解を一蹴するものであり、バイデン政権の本音がとんだところから露見したからだ。
もっとも中国は、南沙諸島や台湾に対する軍事的威圧を着実に強化していることは確実であるが、アメリカが主導する有志連合による軍事介入を招くようなレベルの軍事的威圧は差し控えている。同時に、ロシアウクライナ侵攻のようにアメリカならびにアメリカ陣営による挑発に突き動かされる愚を犯さないように心がけている。