態度を強める米中、事態が不安定化

 米国側も中国側も態勢を強化し、その決意のほどを示そうとしており、かえって事態を不安定にしている。

 そうした行動のなかには、昨年のナンシー・ペロシ米国連邦議会下院議長(当時)による台北訪問のようにメディアで大きく取り上げられるものもあれば、台湾とその離島を結ぶインターネット用海底ケーブルの謎めいた切断のようにほとんど公にならないものもある。

 外交は停滞している。

 米中防衛当局のトップは昨年11月以降、連絡を取り合っていない。最近の偵察用気球の騒ぎの際には、中国が応答しなかったため「ホットライン」が機能しなかった。

 国内向けメッセージも、米国の選挙運動であれ中国トップの演説であれ、より好戦的になっている。

 一方が自国のレッドラインを守るための防衛的な措置だと主張する行為が、他方にとっては自分たちの野心を阻止する攻撃的な試みになっている。

 そのため、双方が態度を硬化する衝動に駆られている。

 米国が台湾を守るためにどこまで踏み込むかは定かでない。台湾はドミノではない。

 中国には、台湾よりも遠い領土についても何らかの構想があるものの、アジア全土を侵略したり直接支配したりすることは望んでいない。

 本誌エコノミストが今週号の特集記事で論じているように、どれほど多くの台湾人が中国を真の脅威と見なしているか、また一戦交える度胸があるかは不透明だ。

米国が台湾支援で目指すべきこと

 台湾人はウクライナ人と同様、米国から支援されるべきだ。

 素晴らしいほど自由かつ民主的な島であり、そうした価値観が中華文化と無縁ではないことを立証している。

 台湾人が独裁に屈しなければならないとしたら悲劇だ。

 もし米国が手を引いたら、アジアの安全保障の傘に対する信頼は大きく揺らぐ。

 中国の要望にこれまで以上に応える国も出てくるだろうし、韓国や日本は核兵器を欲しがるかもしれない。

 そして、第2次世界大戦後に国連で明確に定められた個人の自由よりも国益が優先されるという中国の世界観が補強されることになる。

 だが、台湾が受ける支援は、中国の攻撃を誘発せずに、攻撃の抑止を目指すものであるべきだ。米国は習氏の計算を検討する必要がある。

 米国の全面的な安全保障は台湾を大胆にし、正式な独立に踏み切らせるかもしれないが、これは習氏のレッドラインだ。

 米軍が台湾でのプレゼンスを大幅に増強すると約束すれば、中国はそれが実現する前に侵攻しようと考えるかもしれない。

 しかし、もし侵攻に失敗すれば、習氏も中国共産党も大きな代償を払うことになる。米国はスタンスを細かく調整する必要がある。

 レッドラインには手を付けないと説いて納得させつつ、台湾侵攻には受け入れがたいリスクがあると習氏に理解させなければならない。

 目指すべきゴールは台湾問題の解決ではなく、問題を先送りすることだ。