(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
1月23日、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領とブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領がアルゼンチンの首都ブエノスアイレスで会談を行い、両国で共通通貨の発行を目指すと発表した。共通通貨を発行することで、貿易や金融取引を活発化させ、世界経済におけるプレゼンスの拡大を目指すことが狙いだ。
両国が世界の国内総生産(GDP)に占める割合は5%程度である。先行して共通通貨を導入している欧州連合(EU)のユーロ圏で14%程度であるため、アルゼンチンとブラジルで共通通貨が導入されれば、ユーロ圏の3分の1程度の経済圏が形成されることになる。日本と同等以上の規模の経済圏が形成される計算だ。
こうした共通通貨の発行は、これまでも中南米でたびたび議論されてきた。ベネズエラ、キューバ、ボリビアなどが参加するALBA(米州ボリバル同盟)では、スクレと呼ばれる域内貿易決済のための共通通貨が発行されるに至っている。アルゼンチンとブラジルでも共通通貨発行の議論が1990年代に盛り上がったが、結実することはなかった。
共通通貨を導入すれば、通貨政策が一元化される。その結果、参加国の財政政策と金融政策は、自律性を失うことになる。そのため、2010年代前半に生じたギリシャを中心とする欧州債務危機の経験に照らして、共通通貨の導入で財政政策と金融政策の自律性を失うというデメリットの大きさを指摘する声も少なくないようだ。
もっとも、アルゼンチンとブラジル、ひいては南米諸国まで拡大して指摘できることであるが、共通通貨を導入し、特に財政政策の自律性に制約を科すことは、メリットのほうが大きいと考えられる。なぜならば、戦後の南米の経済が身の丈以上の財政拡張をした結果、通貨危機を繰り返し招いてきた歴史を持っているためだ。