若いほどその価値が高まる「市場価値」において、20代後半にむけてこれほど評価を上げる選手は多くない。

 この成長を実現するまでの道のりは、11月に刊行された遠藤航の著書『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』に詳しいのでぜひ手に取ってもらいたいのだが、欠かせなかった条件のひとつにワールドカップがあることは間違いない。

遠藤航の思考法が詰まった1冊、11月に刊行され2度重版するなど好評を博す。

 次のワールドカップこそは――その明確な目標こそが遠藤の急成長の「道」を作り上げたのだ。

※  ※

 痛む頭。

 もよおす吐き気。

「今回は、ダメかな――」

 ベッドに横になりながら、遠藤はそんなことを考えていた。

 2022年11月8日。ヘルタ・ベルリン戦に先発出場し、好プレーを見せていた遠藤だったが、後半82分にアクシデントが襲う。

 自陣ペナルティエリア内でヘディングで、ヘルタの選手の頭が遅れ気味に入った。遠藤は空中で気を失い、ピッチに倒れこむ。自分で立つことができず、そのまま救急車で病院に運ばれた。

 ワールドカップイヤー。キャプテンとして2年目の大役を背負いスタートした今シーズン、遠藤のパフォーマンスはさすがの一言だった。

 なかなか勝利がついてこず、フラストレーションがたまるシーンも多かっただろう。それでも決して手を抜くことはなく、全試合に先発し献身的に戦い、走り、1対1に勝ち続けた。

 ワールドカップまで1カ月を切った中で、コンディション調整も計画通りに進んでいた。

「ワールドカップ仕様に、トレーニングのレベルも上げています。結構、しんどい。その分、リーグの試合はちょっと体が重いけど」

 冗談めかして笑うほど順調だったなかで訪れた不測の事態。

 ――クラブは「重度の脳震とうの疑いがある」と発表し、翌日にはW杯の出場を危ぶむニュースが流れた。

 実際、遠藤はW杯に出られないことを覚悟した。

「(出場が)どうなるかわからないというより、とにかく症状が出ていたんで。最初はまったく覚えていなかったですし、とくに頭痛と吐き気でW杯どころじゃないかな、と思っていました」