(立花 志音:在韓ライター)
「お母さん、オオミソカって何?」
元旦早々、高校生の長男が聞いてきた。早々といっても、幼馴染の家で年越しした息子が帰ってきたのは、夕飯時だった。
「昨日のことだよ。そしておそばを食べる日ね。」
わざと曖昧な言い方をした。台所に立つ筆者に、三十日(みそか)と晦日と大晦日の説明をしてあげられる余裕はなかった。
「おしるこの残り食べる? 日本のお餅があるよ」
コロナ以前の年末は日本に帰っていたのだが、ここ3年ほど、日本人の友達を我が家に呼んで忘年会をしている。いつもは日本のおそばを茹でるのだが、今回はおしるこで1年の締めをした。
「お雑煮」
棒読みで意外なセリフが、背後から聞こえた。
「えーっ、お餅はあるけどお雑煮の材料がないのよね」
「お雑煮!」
声量が1.5倍になってリピートされた。「韓国でお雑煮を食べたい人なんて、朝鮮半島一周してもあなただけでしょう」と言いたい気持ちを抑えてネギを刻む。
「ごめん、砂糖醤油を作ってあげるから、お餅だけ食べる?」
イライラしながらも最大級の作り笑顔で、会話を続ける筆者に息子はこう言った。
「日本のお醤油ないの? これじゃあ全然お正月にならないじゃん」
随分と生意気なことを言うものだ。半分呆れながら台所の下にあるキッコーマン醤油を出して、ドンと食卓に置いた。
韓国は陰暦で新年を祝う。
今年は1月22日が旧正月にあたり、まだ真のお正月は来ていない。
韓国のお年寄りは誕生日も陰暦で認識している。実際に夫の両親も陰暦で祝う。毎年カレンダーを新しくして、両親の誕生日を調べて印をつけることが、我が家の初仕事である。
韓国のカレンダーはほとんど陰暦が小さく併記されているから、難しくはない。しかし、儒教文化の韓国で親の誕生日を忘れていたなどとは、あってはならない話だ。
ソルナル(正月)と呼ばれる陰暦の元日には親族が集まり、目上の人に歳拝(セーベー)と呼ばれる新年のあいさつをすると、お年玉がもらえる。
親族の一番目上の人が上座に座り、子供や孫たちが順々に、伝統的お辞儀をする。韓国のお年玉は目上の人から目下に渡されるので、子供だけではなく大人ももらえるのだ。