法的効力のない勧告でもダメージ
ドナルド・トランプ前米大統領の支持者らが2021年1月6日、連邦議会議事堂を襲撃した事件の全貌を解明する米下院特別委員会は12月19日、最終公聴会を開き、1年6か月にわたる調査を終えた。
12月21日に154ぺージの報告書が発表される。
(https://apnews.com/article/capitol-riot-committee-final-report-773518554386)
報告書には、2020年の大統領選で敗北したトランプ氏が、結果を覆そうと各方面に圧力をかけて支持者を扇動し、米議会襲撃事件を起こさせたとして、内乱罪や公務執行妨害罪、政権移譲の妨害を共謀した罪などでトランプ氏を告発した経緯が書かれている。
そして特別委は、メリック・ガーランド司法長官に対しトランプ氏を訴追するよう勧告している。
共和党は「米議会の勧告には法的効力はなく、民主党主導のシンボリックなジェスチャーに過ぎない」(共和党トランプ支持者)と無視するスタンスだ。
だが、米議会が大統領経験者に対し刑事犯罪容疑で司法省に“事件”を送致したのは、246年の米政治史上初めてのこと。
その政治的意味合いは重い。この日は米史上に汚点として残る。
この屈辱に対して当人のトランプ氏は前日(12月18日)、自前のSNSで特別委の決定、報告書に反論した。
「特別委員会とやらの面々は、これまでにもトランプにはロシア絡みの疑惑がある、と騒ぎ立ててきたいかがわしい連中だ。アメリカ合衆国を嫌う腐敗した腰抜けどもだ。私はわが国を救うために(奴らと)戦っている」
下院の勧告には法的な裏付けはない。
保守系サイト「ニューズマックス」は、ハーバード大学法科大学院のアレン・ダーシュウィッツ教授を引っ張り出してきて、こう解説する。
「米国憲法には議会による私権剥奪(Bills of attainder)*1と公権喪失(Ex post facto)*2を禁止する規定がある」
「したがって議会が司法当局に訴追を勧告する法的権限はない。米国憲法は政治よりも市民的自由を重んじている」
訴追はおろか、司法当局への勧告すらできないという「少数意見」でトランプ氏を弁護しているわけだ。
(https://www.newsmax.com/newsfront/alan-dershowitz-jan-6-committe/2022/12/19/id/1101120/)
*1=私権剥奪とは、裁判所や議会で反逆罪(treason)や重罪(felony)で死刑や法権喪失(outlawry)の判決を受けた場合、土地や財産の所有権を失い、子孫も相続権を失うこと。
*2=公権喪失とは、公職にある者が持つ、国民に対して義務の履行を強制する国家的公権力を失うこと。