韓国人に大人気の安重根

(羽田 真代:在韓ビジネスライター)

 日本の初代内閣総理大臣の伊藤博文は、1909年10月26日に中華人民共和国・黒龍江(こくりゅうこう)省・哈爾濱(ハルビン)市にあるハルビン駅で、大韓帝国の運動家である安重根(アン・ジュングン)に暗殺された。伊藤博文がハルビンを訪れたのは、ロシア蔵相ウラジーミル・ココツェフと満州・朝鮮問題について非公式に話し合うためだったという。

 暗殺に関しては安重根単独説の他にも、伊藤博文が着用していたコートの弾痕から併合強硬派による謀殺だったのではないかという説や、遺体に埋まっていた弾丸がフランス騎馬隊カービン銃(歩兵用小銃より銃身が短い騎兵用小銃)用であったことから、フランスの仕業ではないかという説もある。暗殺から113年が経った今でも真相は謎に包まれたままだ。

 だが、一般的には安重根が殺したとされている。だから、日本で安重根と言えばテロリストという認識だ。だが、国を韓国に移せば、彼は民族運動の義士であり、ヒーローであり、現代の韓国人にとっては神のような存在の人物である。

 そんなテロリストであり、ヒーローでもある安重根が、2023年は韓国の映画市場で大暴れしそうだ。彼を主人公にした映画が立て続けに公開予定なのだ。

 まず封切りされるのは、2022年12月21日の「英雄」だ。これは安重根の生と死を中心に描いたミュージカル映画となっている。

【映画紹介】
 母親の趙瑪麗亜(チョ・マリア)と家族を残して故郷を離れた大韓帝国義兵隊長の安重根。同志たちと共に4本目の指を切る断指同盟(秘密結社のこと/同志たちが命を捧げて独立運動に貢献することを天に誓い、その意思を明らかにした)で祖国独立の決意を固めた安重根は、朝鮮侵略の元凶である伊藤博文を3年内に処断できなければ自決することを血で誓う。

 約束を果たすため、ウラジオストクを訪れた安重根。長年の同志である禹徳淳(ウ・ドクスン)、名射手の曹道先(チョ・ドソン)、独立軍最年少の劉東夏(ユ・ドンハ)、独立軍を世話する同志のマ・ジンジュと共に反撃の準備をする。

 一方、自身の正体を隠して伊藤博文に接近し、敵陣の中心で命をかけて情報収集していた独立軍の情報員のソルヒは、伊藤博文がまもなくロシアとの会談のためにハルビンを訪れるという一級機密を急いで伝えた。

 1909年10月26日、この日を心待ちにしていた安重根は、ハルビン駅に到着した伊藤博文に向かって躊躇なく引き金を引く。現場で逮捕された彼は戦争捕虜ではなく殺人の罪目で、朝鮮ではなく日本の法廷に立つことになるが……。誰が罪人なのか、誰が英雄なのか。

 監督は「海雲台(日本名:TSUNAMI -ツナミ-)」「国際市場で逢いましょう」で、韓国で初めて観客動員数2000万人を記録した尹濟均(ユン・ジェギュン)監督だ。

 12月に公開される「英雄」は尹監督が8年振りにメガホンを取った作品で、ロケ地の一部には日本も入っているそうだ。日本側の情報を収集し独立運動を積極的に手助けをするソルヒ役には、ドラマ「トッケビ」で知名度を上げた金高銀(キム・ゴウン)が演じた。