11月1日、ソウル市・梨泰院の事故現場には、犠牲者の追悼のために多くの人が訪れていた(写真:ロイター/アフロ)

 10月29日、韓国のソウル・梨泰院(イテウォン)のクラブ街でハロウィンを楽しんでいた多くの若者たちが、人波によって「圧死」する事故が発生した。狭くて混雑していた路地で起きたこの事故は150人以上の死者が発生する大惨事となり、韓国だけでなく全世界に衝撃を与えている。

 ところが、韓国のネット上では各種のデマや怪談が流布され、社会的混乱をさらに加重させている。しかも、このフェイクニュースに野党政治家が加わり、尹錫悦(ユン・ソンヨル)政権を揺さぶっている。政権序盤から低い支持率に苦心している尹錫悦政権としては、今回の災害で発足6カ月目にして最大の危機に直面している。

事故当時の現場映像が「一切加工なし」のままネットに氾濫

 かつてソウル唯一の米軍駐留地域だった龍山米軍基地の近くに位置する梨泰院は、米兵たちが楽しんでいたハロウィン文化が継承されているところだ。主催がはっきりとしている公式的な行事ではないが、各クラブを中心に様々なハロウィンイベントが行われるため、韓国の若者の間ではハロウィンといえば梨泰院を思い浮かべるほどの名所となっている。

 ところが、ここで29日、この若者の街でとんでもない事故が発生した。狭い路地に群衆が殺到、そこで将棋倒しが起こってしまい、数多くの死傷者を出した。犠牲者のほとんどが20代の若者だったこともあり、韓国国民が受けた襲撃は極めて大きかった。

 この悲劇的な事故の報道に接し、ネット上には韓国人だけでなく世界の人々が犠牲者を悼み、遺族を慰める書き込み行っている。だが一方では、亡くなった犠牲者や遺族らをさらに傷つけるような書き込みも数え切れないほど溢れている。

 それは、梨泰院のクラブ街に対する偏見をもって犠牲者らを侮辱する内容で、「麻薬を摂取して死んだ」とか、「酒飲んで遊んでいたせいで死んだのに、なぜ国民が追慕しなければいけないのか」といった非難調の文だ。韓国政府が事故当事者と遺族への補償金や葬儀費および治療費支援などを約束すると、彼らの非難はさらに大きくなった。ネット上では一部の犠牲者の身元情報が公開される一方、被害者遺族に対しても非難の書き込みも掲載された。