今年5月9日、大統領を退任し、青瓦台を去る文在寅氏と金正淑夫人。この退任と同時に「積弊清算」捜査の幕が上がった(写真:AP/アフロ)

 5年前、政権発足とともに最優先の国政課題として「積弊清算」を掲げて検察を総動員し、200人余りもの保守政権関係者に加え、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)の両大統領経験者を監獄に送った文在寅(ムン・ジェイン)大統領。ところが大統領を退任した現在、検察に矛先を向けられた自分の身の安危を心配しなければならない状況に追い込まれた。

 文在寅政権の5年間、埋もれていた疑惑の蓋が次々と開けられはじめ、検察の捜査がひたひたと文在寅氏周辺に迫ってきているのだ。

監査院による質疑書送付に激怒した文在寅

 尹錫悦(ユン・ソンヨル)政権による“対文在寅政権積弊捜査1号事件”は2020年9月に発生した「西海公務員殺害事件」だ。

 2020年9月22日夜9時40分頃、韓国西海上のNLL(南北海上境界線)付近で漂流していた韓国海洋水産部漁業管理団所属の公務員イ・テジュン氏が北朝鮮軍の銃撃を受けて死亡した後、遺体が燃やされる事件が発生した。当時、文在寅政権は様々な状況証拠をあげて、「イ氏が北朝鮮に亡命しようとして殺害されたものとみられる」と発表した。また北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が速やかに謝罪文を送ってきたこともあり、文在寅政権は事件をあっという間に終結させた。

 だが、文在寅政権が下した結論に強い疑問を抱いた亡くなったイ氏の遺族は、裁判所に情報公開請求訴訟を起こしながら再調査を要求し続けた。