ロシア軍は、電子戦妨害システムを使って、2014年のクリミア侵攻以来、ウクライナ軍が使用するGPS信号の妨害を行ってきた。
また、今年の2月24日の侵攻前からも、妨害を行っている。
GPS誘導兵器の弱点は、全地球測位衛星(測位衛星)から送られるGPS信号が妨害されたとき、機能が停止してしまうことだ。
米国宇宙軍によれば、「ロシア軍は、測地衛星への攻撃を実施していないが、ウクライナ国土内で、GPS信号に対して攻撃している」という。
ロシア軍は、ウクライナ軍にGPS信号を使わせたくないのだ。
民用のドローンが電子戦攻撃により墜落したという情報はあるが、軍用のGPS誘導兵器が撃墜されたという情報はほとんどない。
ロシア軍の妨害は、ウクライナ軍のGPS誘導兵器の機能を実際に妨害・停止させているのか。
現実のGPS妨害では、どのようなことが起きているのかについて分析する。
1.ウクライナ軍のGPS誘導兵器
「New King of Battle」
砲兵(Field Artillery)は、「King of Battle」と言われてきた。
火砲は、遠く離れたところから、敵部隊を攻撃し破壊することができるからだ。戦場では、多くの火砲で多くの弾丸を撃ち込めば、戦況を有利にすることができる。
ロシア軍は当初、各戦線で大量の砲弾を撃ち込んでウクライナ軍を制圧、反撃を止めていた。
ところが、米軍からHIMARS(High Mobility Artillery Rocket System=高機動ロケット砲システム)などが供与され、この射撃によりロシア軍の多くの火砲や弾薬庫が損害を受けた。
これらが破壊されてから、ウクライナ軍の反撃が始まり、領土を奪回しつつある。
欧米から供与されたHIMARSなどは長射程で、正確に目標に命中させることができる。
従来の火砲よりも約2倍の距離を飛翔して目標に命中することから、その威力は飛躍的に増加した。
「New King of Battle」が出現したのだ。
長射程GPS誘導兵器を装備することにより、これまで攻撃することができなかった敵の指揮所や弾薬庫までも標的にして攻撃し、破壊することができる。
また、砲弾は飛翔速度が速く弾自体が小さいために、防空兵器でも撃墜できない。