9月29日、訪韓した米国のカマラ・ハリス副大統領と会談した尹錫悦大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国の野党第一党「共に民主党」(以下「民主党」)による常軌を逸した尹錫悦政権“攻撃”が始まった。

 民主党は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の英国、米国(国連総会)、カナダ歴訪を「失敗」と断定、これを「外交惨事」としてその責任者である朴振(パク・チン)外交部長官を解任する決議を国会において単独で可決させてしまった。国会議席の過半数を握る民主党の、数を頼んだこの行動に対し、主要メディアばかりか、革新系の野党「正義党」も批判を展開している。

 今回の民主党の行動は、尹錫悦大統領外交について事実確認を行わないまま、外交惨事と断定し、国内政治に利用したものである。これは決して韓国の国益に沿うことではない。しかし、民主党は国益よりも党利党略に基づいて「尹錫悦政権叩き」を優先している。

 ただ、かねてより政権に対決姿勢を鮮明にしていた民主党に対し、尹錫悦政権の稚拙な外交は格好な攻撃材料を与えてしまったとの指摘は甘んじて受けざるを得ない。今後は民主党の陰湿な攻撃を予想し、老獪な外交を行っていく必要があろう。

 また、今回の外交部長官解任決議案は、尹大統領が拒否することを前提としたものであろう。それでも、これを提出したということは、いずれ、尹錫悦大統領を弾劾したい意図があると考えざるを得ない。韓国国内政治は一寸先が闇である。

エリザベス女王の棺に献花できなかったことが「外交惨事」?

 尹錫悦大統領はエリザベス女王の国葬に参列するため英国を訪問した。国葬の前日となる9月18日、空港到着直後にウエストミンスター宮殿に直行し、宮殿内に安置された女王の棺の前で拝礼する計画だったが、「(英王室側から)交通の事情で18日午後遅く到着した首脳は直接の拝礼の代わりに記帳してほしい」との案内を受け、直接の拝礼はできなかった。

 これについて「ハンギョレ新聞」は、民主党首席報道担当の声をこう紹介している。

「ウエストミンスターホールへの弔問の取り消しを発表するなら、尹錫悦大統領夫妻は一体何をしに英国に行ったのか。なぜ他の国の首脳は弔問できたのに、なぜ大韓民国の大統領だけができなかったのか」

「尹錫悦政権が発足してから4カ月しか経っていないのに、『外交惨事』が続いている」