(柳原三佳・ノンフィクション作家)

 台風15号の影響で「線状降水帯」が発生し、記録的な大雨に見舞われた静岡県。清水区では巴(ともえ)川が氾濫し、周辺の住宅や店舗に大きな浸水被害が出ました。被災地では現在も復旧や片付けの作業に追われているといいます。

 治水工事が進んでいるはずの現代においても、自然の猛威に太刀打ちできない現実……。豪雨のたびに映し出される過酷な被害の現状には唖然とします。

 しかし、歴史を振り返れば、人々は数えきれないほどの自然災害に打ちのめされながらも、懸命に復活をとげてきたのです。

繰り返す水害が高度な数学を根付かせた

 実はその昔、水害の多い地域では「和算塾」が栄え、多数の優秀な人材を生み出していたことをご存じでしょうか。こうした土地では、流された田畑や領地の正確な測量のほか、堤防や土手、水路の建設などが必須でした。そのためには、高度な数学の知識を身に付けた人材を育成する必要があったのです。

 本連載の主人公である「開成をつくった男・佐野鼎(さのかなえ)」も、そんな一人でした。