トランプ前大統領(右)には「慎重な」対応をしてきたメキシコのオブラドール大統領(左)だったが、バイデン政権発足後は徐々に強硬姿勢に(写真:ロイター/アフロ)

(水野 亮:米Teruko Weinberg エグゼクティブリサーチャー)

エネルギー政策で米国、カナダと対立

 米国、メキシコ、カナダのあいだで2020年7月に発効した自由貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」。その加盟国間で、相手国の貿易・投資措置の是正を求める動きが顕著となっている。

 カナダの酪農品に対する関税割当制度、米国の自動車原産地規則の解釈、米国のカナダ産軟材(針葉樹の木材)に対する貿易救済措置など、加盟国は紛争解決手続きに基づきUSMCAのルールに抵触している疑いのある措置の裁定を求めている。

 今年7月、米国とカナダはメキシコのエネルギー政策の見直しを求めて同国に協議を要請した。問題となっている政策は、メキシコのオブラドール政権による国営企業メキシコ石油公社(PEMEX)および電力庁(CFE)の優遇策である。

 ペニャニエト前政権時代に成立したエネルギー改革を受けてメキシコへの進出を進めてきた外資のエネルギー企業は、オブラドール政権の新政策により大きな影響を受けている。

 USMCAの紛争解決手続きに関するルールによると、まずは申立国(今回の場合は米国とカナダ)が被申立国(メキシコ)に協議を要請する。

 協議で解決しなければ、いわば裁判のような役割の「パネル」を設置、パネルによって当該措置がルールに抵触していると見なされれば、被申立国に対して是正勧告が発出される。

 そしてメキシコが是正勧告の受け入れを拒否すれば、米国とカナダは関税の引き上げなど報復措置の発動が許可される。