ツイッター買収はまだ諦めていない?

 しかし、偽アカウント問題を解決し、サービスにサブスクや有料コンテンツを盛り込んで魅力的な内容にするために、5兆円も6兆円もの巨費を投じてツイッター社を買収するといわれても、納得できる人はまずいないだろう。そんなことは優秀なプログラマーたちをたくさん集めてやれば済むことだ。その費用なら5兆円の1万分の1のコストでも十分だろう。

 そもそも、ツイッター買収に時間を割くより、マスク氏には他にやらなければならない重要なことがあるはずだ。注文しても納車まで半年かかると言われるテスラの人気EV「モデル3」の生産体制の改善や、モデル3で使っているリチウムイオン電池の原材料価格の高騰対策もある。スペースXでは火星ロケット「スターシップ」もブースターが爆発事故を起こし原因究明と設計改善が急務だ。

 そこで浮かぶのは、私たちに見えていないツイッターの可能性をマスク氏は見つけているのではないかという疑問符だ。マスク氏が2006年にテスラのマスタープランを発表した時を思い出してほしい。マスタープランの内容は次のようになっていた。

(1)スポーツカーを作る
(2)スポーツカーを売ったお金で、手頃な価格の車を作る
(3)低価格の車を普及させて、さらに手頃な価格の車を作る
(4)上記を行いながら、ゼロエミッション発電オプションを提供する

 しかし、このマスタープラン発表時のテスラは、EVを1台も出荷していないヨチヨチ歩きのベンチャー企業に過ぎず、このプランの価値に世間は気づかなかった。その後テスラが実現したのは以下のことだった。

(1)2008年に約10万ドルの「ロードスター」を出荷
(2)2012年に約7万ドルのEVセダン「モデルS」を出荷
(3)2017年に3万5000ドルの「モデル3」を出荷
(4)太陽光発電パネル「ソーラールーフ」と蓄電システム「パワーパック」の出荷

 EVを作るだけでなく、発電から蓄電まで手がけることで「持続可能なエネルギー企業」となったテスラは、2020年に時価総額でトヨタを抜き自動車メーカーの世界一となったことは周知のとおりだ。そして、この時やっと2006年に発表したマスタープランの現実味を世間は理解した。

 これまで説明してきたように、マスク氏の発想はリアルタイムでは理解されないことが多い。だが、時間が経つにつれてマスク氏の有言実行の狙いが明らかになっていく。そう考えると、ツイッター買収も単に気まぐれや思い付きで6兆円ものカネを提示したとは思えない。一旦は買収を撤回したが、「本当はまだ諦めてはいない」と著者はみている。

 イーロン・マスクという経営者は、これからもぶっ飛んだ発想を次々と生み出し、あらゆる業界の常識を壊していくことだろう。もちろん数多くの失敗や挫折もあるだろうが、大きな時代の変化や競争激化の中でイノベーションを起こすためには、今までと同じことをしていても始まらない。そうした先見性も注意深く見ていく必要がありそうだ。