(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
インフレの加速は世界的な現象だが、欧州もまた、近年では稀に見るハイペースで物価上昇が続いている。欧州連合(EU)統計局(ユーロスタット)が7月末に公表したユーロ圏の最新7月の消費者物価は、総合指数ベースで前年比8.9%上昇と、6月(同8.6%)から伸び幅が拡大し、1999年1月の統計開始以来の過去最高を更新した。
消費者物価の前年比に対する各構成項目の寄与度の推移(図1)を確認すると、物価の最大の押し上げ役は引き続きエネルギーであることが分かる。コロナショック以降の急速な景気回復や産油国の協調減産に加えて、ロシアとの関係悪化に伴う化石燃料の供給不足が、ユーロ圏のインフレの加速の主な原因となっている。
【図1 ユーロ圏の消費者物価の推移】
そのほかにも、食品等(食品・酒・たばこ)の押し上げ寄与度も拡大している。
この食品価格の上昇も、ロシアのウクライナ侵攻の影響を大きく受けた現象だ。特に両国から欧州向けの輸出が多かった食用油脂(ひまわり油や菜種油など)の価格上昇は顕著であり、ドイツでは6月の食用油脂価格が前年比43.1%も上昇した。
欧州の場合、エネルギーと食品等の価格上昇がインフレの主因であり、典型的なコストプッシュ型のインフレである。とはいえ、エネルギーや食品等を除く財やサービスに関しても、消費者物価上昇率に対する押し上げ寄与度が徐々に拡大しており、インフレのすそ野は着実に広がっていることが分かる。