(北村 淳:軍事社会学者)
20世紀前半にアメリカの東アジア・西太平洋地域での覇権拡大行動に果敢に挑戦した日本に代わって、ここ数年来、中国がアメリカの東アジア・西太平洋地域での覇権維持に異議を唱えている。四半世紀を費やして海洋戦力を強化してきた中国は、アメリカの価値観に基づいた国際秩序、とりわけ国際海洋法秩序なるものを破壊しアメリカの覇権を侵食する勢いを強めている。
これに対して、ソ連との冷戦に打ち勝って以降「兜の緒を締め忘れて」慢心してしまった米軍指導部主流や多くの政治家たちは、軍情報機関や一部シンクタンクの中国専門家たちの警告を軽視し、中国による海洋戦力(海軍力、航空戦力、長射程ミサイル戦力)の強化努力をみくびり続けていた。その結果、中国の強力な接近阻止戦力の前に、アメリカの海洋戦力は、対中戦略の抜本的転換を余儀なくされている。
しかしながら、海洋戦力の中枢である米海軍は、艦艇開発建造能力、艦艇と航空機のメンテナンス能力、それに将兵育成訓練能力など戦力面でも兵站面でも深刻なトラブルに見舞われている。かつてのように圧倒的な海洋戦力を展開させて中国軍を封じ込めることなど夢物語となっているのが現状だ。
日本はアメリカにとって“最良のツール”
とはいっても、かつて多大な米軍将兵の犠牲と原爆攻撃まで敢行して日本を徹底的に打ち破ることで手にした東アジア・西太平洋地域における米国の覇権は絶対に手放さない、との信念を持ち続けている政府・軍関係者が少なくないのもまた事実だ。