ダビデとゴリアテの戦い

 ジョー・バイデン米大統領はドナルド・トランプ前米大統領の「米国第一主義」で分断した米欧関係の修復に努めたものの、米国の外交・安保政策は中国を封じ込め、同盟国とともにインド太平洋での軍事的プレゼンスを高めることにシフトしている。約20年間駐留したアフガニスタンからも完全撤退した。そのスキをプーチン氏に突かれた。

 ロシアのウクライナ侵攻は皮肉にも米国を欧州に引き戻した。しかし今度はユーラシア大陸東端の台湾が不安になる。米軍のインド太平洋へのシフトが止まれば、中国の軍事的台頭を抑止できなくなる。それが今回のウクライナ戦争で台湾が欧州への関与を強めている背景にある。中国は今のところ2024年の台湾総統選の行方を注視する構えだ。

 しかし昨年3月、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は2027年までに台湾への脅威が顕在化すると証言。今年5月、来日したバイデン氏は岸田文雄首相との共同記者会見で「あなたはウクライナ紛争に軍事的に関与したくなかった。同じ状況になったら台湾を守るために軍事的に関与する気はあるか」と問われ、「イエス」と即答した。

 米ホワイトハウスは「われわれの政策は変わっていない」と発言のトーンを弱めたものの、バイデン氏は口先では「戦略的曖昧さ」から「戦略的明確さ」に舵を切った。巻き込まれるのを恐れてロシアのウクライナ侵攻と同じように軍事的に消極的な姿勢を見せれば、習主席の領土的野心に火をつける恐れがある。

 旧約聖書に羊飼いの少年ダビデが強くて大きな兵士ゴリアテを倒す物語が出てくる。ダビデは石投げ器で石をゴリアテの額に当てて倒し、戦争を終わらせる。ウクライナ戦争ではウクライナという勇敢なダビデが、欧米が支援する“石投げ器”でロシアというゴリアテと戦う。台湾とリトアニアというダビデは中露という巨人を押し留められるのだろうか。