前出の山田氏は「基本的にウエルカムだと感じているように思います。中国資本は大小、質もさまざまですが、鉄道や高速道路、コンドミニアム、商業施設、ダム開発など目立つ所に中国資本が広く入っています」と現状を説明した。こうした中国資本の投資を通じ、ラオス人が国の発展を直接肌で感じているのは事実のようだ。

 ただ、中国の影響力拡大には当然懸念も伴う。中国・ラオス鉄道の建設に要した事業費は374億3000万元(約7500億円)。ラオスにそんな財源はないため、事業費の大半は中国の政策金融機関からの借り入れで賄われた。鉄道だけでなく、水力発電所の建設などでも多額の対中債務を抱え、今後返済が滞れば、対中依存で「債務の罠」に陥ったスリランカの二の舞になりかねないとも指摘されている。

 シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イスハク研究所による今年の調査によれば、ラオスでは東南アジアに最も影響力を持つ経済大国として、「中国」との回答が86.4%と圧倒的に多かったが、中国の影響力増大を「懸念している」との回答も65.8%に達し、前年(48.6%)を大きく上回った。

 これについてジェトロの山田氏は、「ラオスの債務問題、特に中国への二国間債務の高まりが警戒水域に達していることや、大規模な鉱山開発や農業開発による環境問題や土地問題などが広く認知されてきていることを反映している」と指摘した。

 筆者は現地に住む中国人にも「中国人はラオスで歓迎されているのか」とストレートに質問してみた。ネットで知り合ったビエンチャン在住の中国人青年は「その質問はデリケートだから、誰もまともには答えないですよ。実際中国人がラオス人にどう思われているか肌で感じていますからね」という微妙な答えだった。

 一方、観光業で成り立つ古都ルアンパバーンでもコロナ後の中国資本の流入を懸念する声があった。中国がコロナによる渡航制限を解除すれば、中国資本と中国人観光客が押し寄せ、状況が一変するのは確実だからだ。

 現地在住日本人は「いまコロナでホテルが売りに出たりしていて、ラオス人には中国人が大挙してやってくる前に日本人に買ってもらえないものかとよく言われます。街が一気に中国化することを恐れているようです」と話した。

ガソリン不足に見る危うさ

 ところで、ちょうど取材に訪れた間、ラオス各地ではガソリン不足が深刻化していた。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとする世界的な原油高に加え、通貨キープの急落で燃油の輸入をストップしたからだ。ガソリンスタンドの多くが閉鎖され、営業しているスタンドには長蛇の列ができた。

 そこにはラオス経済の脆弱性が透けて見えた。米格付け大手ムーディーズによれば、2021年時点でラオスの対外公的債務残高はGDPの81%にまで拡大したとみられる。その債務を返済するために多額の外貨が必要となり、急激なキープ安が起きた。「一帯一路」の美名の下で進む大型インフラ事業により対中債務が過剰に膨らめば、債務不履行リスクが高まり、ラオスでも「債務の罠」問題が繰り返される危険性をはらんでいる。

宮城英二
1970年宮城県生まれ。新聞社、通信社、アジア各地の邦字メディアを経て、2007年からフリー。アジア各地に在住経験。アジア各国のニュース邦訳編集なども手掛ける。

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