取材時点で旅客列車は1日3往復しかなかった。コロナの影響で中国との直通旅客列車もまだない。筆者はビエンチャンから北部の古都ルアンパバーンを目指すことにした。列車はホームを定刻に滑り出した。沿線には数多くのトンネルや橋梁があり、カーブが少ない。揺れもほとんどなく、非常に快適だ。勿論快適に越したことはないのだが、私の知るこれまでのラオスのイメージとはあまりにかけ離れており、違和感を覚えるほどだった。筆者が拠点とする隣国タイにもこれほどの高規格鉄道はまだない。

 最高時速160キロの瀾滄号は、かつて山の稜線を縫うように走る悪路を10時間以上行かねばならなかった距離を、わずか1時間50分で走破してしまった。ちなみに二等車の運賃は24万2000キープ(約2200円)。客層は都市部の中産階級と隣国タイの観光客が大半を占めているようだった。

物流に大きなインパクト

 中国政府は中国・ラオス鉄道を習近平政権が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」の重要プロジェクトと位置づけている。昨年12月の開通式で習主席は「両国の社会主義制度が力を集中して大事を成し遂げる特殊な優位性を示した」とラオス人民革命党政権との連帯を強調する一方、「鉄道の開通で(中国雲南省の)昆明からビエンチャンまでの山はもはや高くなく、道のりも長くはなくなった」と称賛した。

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 ラオスに鉄道を通した中国の最大の思惑は自明だ。それは先に触れたビエンチャン駅の立地からも見て取れる。実はビエンチャン駅から先には貨物専用駅のビエンチャン南駅が存在する。タイ国鉄がラオス側に乗り入れているタナレン駅に近く、物流施設「タナレン・ドライポート」までの貨物専用線も整備された。旅客輸送はあくまでおまけであり、中国・ラオス鉄道は中国にとって待望の東南アジアへの物流ルートなのだ。中国各地からラオスに向かう国際貨物列車の運転は既に始まっており、筆者が瀾滄号に乗車している間も中国語が書かれたコンテナを満載した貨物列車とすれ違った。

 中国はこれまでにカザフスタン、ロシアなどを経由して欧州に至る鉄道輸送ルートを確保し、対外貿易で鉄道輸送への依存を強めているが、中国・ラオス鉄道の開通によって、南シナ海など海路を大回りせずに東南アジアへ陸路による大量輸送を行うことが可能となった。それこそ物流革命である。不測の事態で海路が封鎖された場合の代替ルートとなる安全保障上の意味合いもある。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)ビエンチャン事務所員の山田健一郎氏は「鉄道によりラオスと中国との距離感が一気に縮んだと思います。ASEANとの物流に大きな選択肢を与えたことにより、海路が中心で陸路は悪路を何日もかけて運ぶという今までのイメージが一変したと言えます」と語った。

 山田氏によれば、鉄道による貨物輸送量が一気に増えたかというと、現時点では中国のゼロコロナ政策による規制の影響もあり、徐々に鉄道利用に移行している段階にあるという。

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