将来的にタイ国内で計画されている高速鉄道の整備が進めば、中国・ラオス鉄道と接続され、輸送力は格段に向上するだろう。ただ、タイ高速鉄道はバンコクから中間地点のナコンラチャシマまでがタイ政府と中国政府による共同事業として2017年に着工されているものの、ナコンラチャシマから先、ラオス国境のノンカイ間までの着工はまだ見通しが立っておらず、中国からタイまで国際列車が走るのは相当先のことになりそうだ。
膨張するチャイナタウン
中国・ラオス鉄道以外に、首都ビエンチャンでも是非見ておきたい場所があった。西郊のワッタイ国際空港近くに形成された新チャイナタウンの現状だ。中国資本進出のもう一つの現場だからだ。
10年ほど前にも既にこの一帯には中国人経営の店が散見されたが、今回訪れると状況は一変していた。
「三江中国城」と呼ばれる商業施設の周囲には、中国各地の料理を提供する飲食店、7~8階建てのホテル多数、スーパーマーケット、日用品店、自動車修理工場、物流業者、風俗マッサージ店などが密集し、中国語の派手なLED看板がビエンチャンの他地域とは明らかに異彩を放っていた。中国の地方都市をそのまま移設してきたような印象であり、中国人が必要とする物資やサービスを網羅していた。東南アジアで中国資本に「占領」された街としては、対中依存が著しいカンボジアの港湾都市シアヌークビルが知られるが、ビエンチャンの新チャイナタウンもそれに次ぐ規模にまで成長していた。
新チャイナタウンの形成過程
ビエンチャンには古くから都市部に華人による中国系社会はあったが、中国による改革開放政策が本格化した1990年代に湖南省出身者が散発的に移民を開始。その後、中国資本による本格的投資の嚆矢となったのは、三江中国城を創業した浙江省の商人、丁国江氏だった。
中国共産党機関紙の人民日報がかつて掲載したインタビューによれば、丁氏は1998年に視察団の一員としてビエンチャンを訪れ、成功を確信したのだという。
丁氏は「当時ラオスで売られていた商品には、中国の5~6倍の値段が付いていた。中国では100元のガスコンロが100ドルで売れるほどだった」と振り返った。
丁氏は雲南省政府の支援で建設された商業施設を中国商品を販売する一大モールへと改装。故郷で個人経営者に移民を呼び掛け、財を成す人が相次いだ。噂が人を呼び、中国語の表現を借りれば、「アリがせっせと引っ越すように」して、ビエンチャンのチャイナタウンが形成されていった。
ラオス人の歓迎と不安
中国・ラオス鉄道開通やチャイナタウンの膨張が示す中国資本の進出はラオスの人々にどう受け止められているのだろうか。ラオス人の物静かな国民性もあってか、表面的には確執のようなものも見えず、単純に中国脅威論の視点で決め付けて論じるべきでもなかろう。
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