(英エコノミスト誌 2022年6月25日号)
投資家は低金利を維持する日銀の約束を試している。
今から30年前、英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)からの離脱を急遽決めたことで、ヘッジファンド界の大物、ジョージ・ソロス氏が英ポンドの空売りポジション(持ち高)から10億ドルを超える利益を手に入れた。
ヘッジファンドはもう1992年当時のような金融界の巨人ではないかもしれないが、ソロス氏の賭けを描写する際によく使われるフレーズを拝借するなら、「銀行を倒す(break the bank)」ことを夢見る投機家はまだ存在する。
今回、投機筋が目をつけているのは、英イングランド銀行ではなく日銀だ。
金融引き締めに動く世界の中銀
日銀は金融政策の世界でひどく目立つ存在になっている。
米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、そしてイングランド銀行が資産買い入れプログラムの縮小に転じたり政策金利を引き上げたりしてインフレとの戦いを急ぐ一方で、日銀だけは一歩も後に引かず、金融緩和姿勢を崩していないからだ。
6月17日の金融政策決定会合の後、日本国債10年物の利回りをゼロ%程度に誘導することを目指す「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」を据え置いた。
日本国債の利回りと上昇中の米国債利回りの格差が拡大すると、日本円が急落した。
円相場は年初来で15%も安くなり、対ドルで1990年代後半以来の円安水準に達している。
日銀は2016年にイールドカーブ・コントロールを導入した。
金融緩和による景気刺激効果を維持しつつ、物価を押し上げるために2013年から続けてきた日本国債の熱狂的な買い入れをペースダウンさせるのが狙いだった。
この債券利回りの上限が設定されて以来、大半の期間において、誰かが日銀の決意を試そうとした時には債券購入額を増やすと公約するだけで利回りを抑えることができた。