だいじょうぶか日本映画
いずれにしても、観客は男も女も年寄りばかりである。『るろうに剣心』などは若者相手に人気があったようだが、あれは時代劇が当たったというより、若手人気俳優と原作の人気漫画が当たったにすぎない。だからじいさんばあさんの観客は少ない。
それにしても、時代劇にかぎらず日本映画の凋落ぶりはひどい。
いま勢いのある韓国映画ももちろん玉石混交だが、その良質な部分でははるかに日本を凌駕している。日本の若い監督や俳優たちはそのことに危機感をもっているのだろうか。日本アカデミー賞授賞式の和気あいあいの雰囲気を見ていると、どうもそうは思えない。いたとしても少数であろう。
日本映画の問題点のひとつは、役者がテレビ番組(あるいはCM)に出すぎることにあるとわたしは思っている。もっとも、役者といっても、いまやだれが役者なのかがわからない。伝統芸能である歌舞伎の役者が、テレビタレントと変わりがなくなっているくらいだから。
それともうひとつ、映画界にとって情けないのは、上の傾向とは逆で、芸人やタレントたちが映画に出すぎることだ。テレビドラマ(映画も?)には今では最初から芸人枠があるとさえ言われる有様で、芸人やタレントがどういうわけか重用される。本人たちもいつの間にかけっこうな役者気取りである。それがわたしは好きではない。
映画俳優、テレビに出すぎじゃないのか
わたしの好き嫌いなど映画製作者や大多数の観客にとってはどうでもいいことだが、わたし個人にとっては重要である。なぜなら映画を見るのは、このわたしだからである。笑福亭鶴瓶は岩倉具視を演じても所詮「家族に乾杯」で、リリー・フランキーはまじめくさった演技をしても「ヒノノニトン」じゃないか。
松本人志も、韓国映画『MUSA―武士―』を見てこのようにいっている。「それ(韓国映画)に比べると、日本映画は負けてますねえ。(略)結局、日本の場合、一番大きい原因は映画に出ている俳優が普通にテレビドラマに出てるからでしょうね。どうしても安っぽい感じがしてしまうんですよ。映画俳優っていうものがもっと確立されたら、だいぶ変わると思うんです」(『シネマ坊主2』日経BP社)
そのとおり、だと思う。いずれにしても、わたしはそんなタレントたち(俳優や、なかには三谷幸喜みたいな監督まで)が、テレビ番組に出まくっていくら映画の宣伝をしようと、見たくないのである。『虎狼の血LEVEL2』で、いかに鈴木亮平が冷血極悪なやくざを演じても、「ほんとは世界遺産好きの知的な、また世界の食べ物のなかで餅が一番好きな気のいいお兄ちゃんじゃないか」と思ってしまう(鈴木亮平は好きだが)。妻夫木聡はいまでは宝くじのCMで大はしゃぎする、ただのあんちゃんである。
映画を見る若者や老人は、そういうことは気にならないのだろうか。俳優たちも全然気にしてないのだろうか。むしろそういう風潮を喜んでいるのか。滝藤賢一はどんなCMにも出まくっていて、渾身の演技をしているが、現在ではそれもしかたないことなのか。
みんながみんな、渥美清のように「寅さん」一本鎗で、それ以外の露出は控えるといったことが難しいことはわかるが、例えばビールのCMに俳優たちが動員されて必死に競演しているサマを見ていると、なんだか情けないのである。