(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)
コロナ禍は、第6波が過ぎ、新規感染者数や重症者数がピーク時よりも少ない水準で推移している。4月から5月にかけて、3年ぶりに行動制限のない大型連休となり、行楽地などで久しぶりに休暇を楽しむ人たちの声がよく聞かれた。
全国の新規感染者数は減少傾向にあるが、減少のペースが緩やかな地域もある。特に、沖縄県は人口当たりの新規感染者数が全国で最も多く、患者の対応にあたる医療機関に大きな負担がかかっている。政府は、県との連絡調整を密に行うなど警戒を強めている。
そんななか、感染拡大防止策の1つとして、5月25日に4回目のワクチン接種がスタートした。今回はこれまでと異なり、接種の対象者が高齢者などに限定されている。4回目接種を先行して実施している諸外国と同様の取り扱いだが、その対象者の範囲は国ごとにかなり異なっている。
イスラエルから始まった4回目接種
まず簡単に、これまでのワクチン接種について振り返ってみよう。
そもそも新型コロナのワクチンは、異例の速さで開発された。ウイルスのタンパク質のもとになる遺伝情報の一部を注射するmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンやウイルスベクターワクチンとして開発されたことが、スピード開発の背景にある。
実際に、2020年春からの感染拡大に対して、1年もたたないうちに実用化された。臨床試験を経て認可されたワクチンが世界で初めて接種されたのはイギリスで、同年の12月8日のこと。その後、欧米諸国で次々に接種が開始された。日本でも、2021年2月17日に接種がスタートした。
ワクチンを2回接種した人に、3回目の接種をする「ブースター接種」を世界で初めて行ったのはイスラエルで、2021年8月1日のことだった。当時、イスラエルは接種が早く進んだことで、時間の経過とともに免疫が低下して感染してしまう「ブレークスルー感染」のリスクが高まっていた。
その後、各国も3回目接種を始めていったが、日本では12月1日に、まず医療従事者を対象に開始された。
そして、今回の4回目のワクチン接種となる。4回目接種は、3回目で先行したイスラエルが世界で最初に2021年の年末にスタートした。そして、2022年の2月から4月にかけて、欧米諸国などがこれに続いた。日本は5月25日に開始している。
日本ではこれまで、「海外に比べて接種の取り組みが遅い」、「ワクチンの確保が進んでいない」などの批判が上がっていた。しかし、こうして振り返ってみると、日本は欧米の接種動向を参考にして、ワクチンの有効性・安全性を見ながら徐々に接種を進めてきた、ともいえるだろう。