(水野 亮:米Teruko Weinberg エグゼクティブリサーチャー)
筆者は米国や中南米地域でビジネスに取り組む日本企業にリサーチやコンサルティングサービスを提供している。企業との面会やセミナーでの講演の機会も多く、日頃から現地法人の幹部や駐在員と情報交換しているが、ここへきて米国で事業を展開する企業が気をもむ懸案が浮上している。
それは米西海岸の港湾施設で始まった労使交渉の動向だ。米国では経済の動脈である物流の目詰まりが深刻化し、社会問題となっている。カリフォルニア沖に多数の貨物船が停泊し、港への荷揚げが滞っているというニュースを目にした方もいるだろう。労使交渉の行方によっては、状況がさらに悪化する可能性があるのだ。
2020年中盤以降、米国のビジネス界では物流問題が話題の中心となった。新型コロナウイルスのパンデミックで消費が蒸発。その期間に蓄積した膨大なペントアップ需要(繰越需要)は、行動制限の緩和とともに爆発し、中国をはじめアジア諸国から輸入される物資の海上貨物が急増した。
全米最大級の貿易港であるロサンゼルス港とロングビーチ港(いずれもカリフォルニア州)のコンテナ取扱量は、パンデミック以降に記録更新を続けている。ロサンゼルス港の取扱量は、2020年前半こそ米国で相次いだロックダウン措置の影響により前年同月比でマイナスが続いたが、同年8月以降には毎月2桁の伸びを記録した。2021年には過去最高の年間1000万TEU(TEUは20フィートコンテナ1個)を超えた。今年はさらに前年を上回るペースで取扱量が増えている。
陸揚げしたコンテナをいったん港に置くスペースが不足していることに加えて、港湾施設の従業員の間でコロナが流行して人手不足に陥り、ロサンゼルス、ロングビーチの両港は混雑と混乱の極みに陥った。多い時には100隻以上の貨物船が港の沖での停泊を余儀なくされる事態となった。
コロナ騒動の反動で貿易が急拡大し、過去に例を見ない水準のコンテナ不足が発生したうえ、2021年3月には、日本の正栄汽船(愛媛県今治市)が所有し、台湾のエバーグリーンが運航する「Ever Given」がスエズ運河で座礁事故を起こした。こうしたことも相まって、米国の物流は需要に供給が追い付かない状況が続いた。港から内陸に運ぶ貨物列車も混雑し、企業は消費者や顧客の要求に応えるべく、コストをかけて空輸に切り替えるなどの対応を急いだ。