(立花 志音:在韓ライター)
大韓民国に新しい大統領が誕生した。保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領である。暗黒のような5年間の文在寅政権が終わり、この国にもまた光が差し込めるのかと思うと感慨深い……と手放しで喜べればいいのだが、この国はそんなに甘くない。
筆者は、大統領就任式を朝からテレビで見ていた。
韓国保守のネットユーザーたちは、就任演説がどれほど素晴らしかったかという話で盛り上がっていた。これから韓国は自由民主主義を取り戻せると、飲めや歌えやの勢いだった。ちょうど韓国のコロナ制限が事実上解除され、飲食店の夜間営業が可能になった。マスクをしながらも新政権誕生と共に、繁華街は明るさを取り戻しつつある。
しかし、テレビ中継で筆者の目を引いたのは、主役の大統領よりも、来賓席の最前列のど真ん中にいた朴槿恵元大統領の姿だった。就任式が終わると大統領夫妻がそろって朴槿恵元大統領にうやうやしく頭を下げ、朴槿恵元大統領が車で会場を後にするまで、金建希大統領夫人が守るように半歩後ろに付いていた。
なかなか感動的であった。韓国ポピュリズムによって失職した朴槿恵大統領は、新大統領夫妻の計らいにより、世界の貴賓が見守る中、名誉を回復したと言えるだろう。
尹大統領は2016年の検事時代に、朴槿恵元大統領を逮捕した張本人だ。その後、文在寅前大統領によって検察総長に指名されており、異例の出世を果たしたが、曹国前法相の起訴をきっかけに文政権と対立して、検察総長を辞任することになる。
尹大統領は文政権に翻弄されながらも、文政権の悪行ゆえに政治の世界に入ることを決意し、大統領にまでなった人物である。
就任式のちょうど1カ月前に、尹大統領は朴槿恵前大統領を直接訪問して自身の就任式への出席を要請している。