佐々木「戦法は相掛かりを所望する」 藤井「受けて立とう」

 佐々木「ここは公式戦なら1時間は考えるところ」 藤井「1時間も考えたいのはこちらも同じじゃ」

 佐々木「ここで激しく動いてみる」 藤井「佐々木殿の手裏剣が飛び、少し動揺したでござる」

 佐々木「喉から手が出るほどほしい駒じゃ」 藤井「うぬ、謀ったな」

 佐々木「藤井殿、鋭い手じゃ、激痛でござる」 藤井「一気に攻めかかろうぞ」

 両対局者は丁々発止で応酬しながら、公式戦さながらの激闘を繰り広げた。中盤のある局面で、会場の将棋ファンに形勢判断を拍手で求めると、西軍の方が大きかったようだ。

「人間将棋」の決まり事

 藤井は「わが軍が圧倒的に有利だが、動かす算段がついてない駒がある」、佐々木は「こちらも不動駒が多い」と、戦況を語った。

「人間将棋」には、すべての駒を動かすという決まり事がある。

1図(▲5七同玉まで)

 1図は79手目の局面。先手(下側)の佐々木は、九段目の「香桂金桂香」の5枚の駒がまだ動いていない。後手(上側)の藤井は、三段目の「歩」と一段目の「香桂金香」の5枚がまだ動いていない。※計10枚の不動駒は枠で囲ってある。

 そこで藤井は「佐々木殿、協力していただけまいか」と依頼した。提案した主な方法は、自軍の不動駒を動かすのではなく、相手にその駒を取らせることであった。

 実戦は1図から、△9九角成▲8二歩成△6三銀▲9一と△8九馬と進み、不動駒の桂香を取り合った。

2図(△2九竜まで)

 2図は106手目の局面。実戦は▲1一歩成△1九竜と進み、最後に残った1筋の香を取り合った。両対局者の共同作業によって、決まり事をついに果たした。会場からは大きな拍手が巻き起こった。

 藤井は「すべての駒を動かしたのはよかったが、形勢が詰まっておる」と語った。しかし、終盤で「一気に寄せにかかろうぞ」と宣言し、佐々木の玉を19手詰めで討ち取って勝った。

 藤井五冠は「桜も満開で、天気も良く、素晴らしい日の中で人間将棋ができて、いい経験になりました」と感想を語った。

 会場の将棋ファンは、公式戦の対局では見られない藤井のおちゃめな様子とユーモアあふれる武者言葉に、大いに喜んでいた。

 なお、山形県天童市のほかに、兵庫県「姫路城」、天下分け目の合戦が行われた岐阜県「関ヶ原」でも、「人間将棋」イベントが開催されている。