短期的には、敗れて怒り心頭の独裁者がクレムリンに留まるが、ロシアもゆくゆくはウクライナの例にならい、国外での冒険ではなく国内での改革によって自国の問題を解決するようになるはずだ。

 それに伴って、NATOが各国の予算と外交に強いる負担が相応に縮小する。米国はますます激しくなる中国とのライバル関係に、これまでよりも自由に対応できるようになるだろう。

歴史的なチャンスを逃すのか

 残念ながら、西側諸国の大半はこの歴史的なチャンスに気づいていないようだ。

 米国は、ウクライナに戦闘機を送ることを拒んだとはいえ、その責務通りに西側を先導している。

 だが、ドイツは制裁について短期的な見方をし、同盟国や世論からの圧力と、石油・天然ガスの大部分を供給してくれるロシアとの貿易関係の維持とを天秤にかけている。

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ウクライナが必要とする重火器を供給する国は「共同戦争参加国」になると主張し、これは西側の同盟国の考えを代弁したものだと述べている。

 これについてゼレンスキー大統領は、そういうことを言う国は目先のことしか考えていないか、または臆病か、どちらかだと言い切った。大統領は正しい。

 ひょっとしたらドイツは、ウクライナは旧ソビエト連邦時代の過去を捨てられないと思っているのかもしれない。

 確かに、2014年のマイダン革命を経て民主主義国になったものの、汚職と政治的な惰性を断ち切ることはできなかった。また、ロシアの砲撃にさらされた後、ウクライナ経済は壊滅状態になる。

 しかし、欧州連合(EU)はウクライナのEU加盟に向けた作業に今すぐに着手することにより、今回は必ず違う結果になるよう手を貸すことができる。

 戦争で荒廃した大陸に平和を築くというEU創設時の使命を確認する手段として、これ以上のものはあり得ない。

 ウクライナの統治をEUのそれに沿ったものにする作業は必然的に、長い時間のかかる官僚的なものになる。