急激に悪化する財務指標

 孫氏はバフェット氏に似て言葉遣いが巧みだ。

 2月8日、SBGの昨年12月までの9カ月間の純利益が前年同期比で87%減少したことを発表した際、現状を率直に語った。

 会社は昨年秋に始まった冬の嵐の真っただ中にいるだけではない、と孫氏は述べた。金利上昇の恐れがあるために、嵐が米国やその他地域でひどくなったのだという。

 SBGは10~12月期に多少の利益をひねり出したものの、孫氏がタカのように目を光らせている最も重要な2つの指標は急激に悪化した。

 一つはSBGの資産ポートフォリオの時価純資産(NAV)で、190億ドル減って1680億ドルになった。

 もう一つは負債カバー率(LTV)という、保有株式に対する純有利子負債の割合で、SBGが日本の通信事業を上場させた2018年以降で最も高い水準になっている。

 リスクを測るために、こうした計算の資産サイドから見ていこう。

 孫氏がいくら平気な顔をしていても、好材料が乏しいことには変わりがない。

 SBGは2月8日の決算発表の場で、規制当局からの圧力のために、英国の半導体設計子会社アームを米カリフォルニア州の半導体大手エヌビディアに売却する契約を解消したことを認めた。

 エヌビディアとの契約では、最も高額な場合で売却額は600億ドルを超えていた。SBGが2016年にアームを買収した時の約2倍に当たる金額だ。

 売却計画が流れた今、SBGは次の会計年度にアーム株を新規株式公開(IPO)で売却するとしている。

 孫氏はアームの半導体事業の基礎的純利益はこのところ改善したと推計されると述べており、これでアーム株の魅力が増すかもしれない。

 だが、投資助言会社レッデキス・リサーチのカーク・ブードリー氏は、丸ごと売却する時と同じくらいの価値をIPOで生み出せる可能性はほとんどないと見ている。

 また、潜在的な投資家も、SBGがここ10カ月間に上場させた25社のほぼすべてが市場でお粗末な株価パフォーマンスしか残せていないことを見れば、それだけでハイテク会社のIPOでのぼろ儲けはもうできないことが分かる。