世界の宇宙開発を見れば、月や火星への探査が計画され、民間企業もロケットや衛星の製造に乗り出している。世界の主要国が宇宙開発に力を入れる中で、日本の高い技術が成し遂げた宇宙への冒険がある。2020年12月、小惑星「リュウグウ」のサンプルを地球に届けた小惑星探査機「はやぶさ2」である。
2014年の打ち上げから6年以上に及んだ深宇宙での探査機運用。その裏側にはどのような困難があり、今後の宇宙探査はどのような方向に進んでいくのか──。『はやぶさ2の宇宙大航海記』(宝島社)について津田雄一氏(宇宙航空研究開発機構<JAXA>宇宙科学研究所<ISAS>教授・はやぶさ2プロジェクトマネージャ)に話を聞いた。(聞き手:與那嶺 俊、シード・プランニング研究員)
※記事の最後に津田雄一さんの動画インタビューが掲載されています。是非ご覧下さい。
──初代「はやぶさ」の成果や課題を踏まえながらスタートした「はやぶさ2」のプロジェクトは、打ち上げから約6年、様々な困難に直面しながらも小惑星「リュウグウ」のサンプルを地球に持ち帰りました。「はやぶさ2」のプロジェクトスタートまでの経緯とプロジェクトの全容を改めて教えて下さい。
津田雄一氏(以下、津田):先代の「はやぶさ」は、小惑星「イトカワ」に到着後、サンプルを採取し、地球帰還を成功させました。惑星間を往復航行し星のかけらを持って帰ってくるというのは、世界の誰もやったことがない、日本だけが持つ技術です。この技術を生かして、我々独自の宇宙探査技術を磨いていこうと企画されたのが「はやぶさ2」です。
「はやぶさ2」は、科学的に重要なC型小惑星を目指して開発され、打ち上げられました。C型というのは炭素がある小惑星のことで、炭素は地球上の生命にとって重要な物質です。炭素が豊富にある小惑星に行けば、太陽系の歴史だけではなく、生命の起源にも繋がるような科学的な発見が期待されます。
──深宇宙探査における「はやぶさ2」のミッションの意義は何だったのでしょうか。
津田:まず、「はやぶさ」が成し遂げた、惑星間往復航行の技術を生かしリードしていく。これが「はやぶさ2」の1つ目の意義です。
もう1つは、C型小惑星に行き、星のかけらを持って帰るという、まだ世界の誰もやったことのないことを目指す。これが、2つ目の大きな意義です。
そして3つ目は、小惑星に到着した先で自在性を示せたこと。それが、「はやぶさ2」の科学的技術的な意義です。
今までの惑星探査機は到着後、できる限り観測し、それでミッション達成というものが大半でした。それに対して、「はやぶさ2」は到着後、小惑星にロボットを4台降ろして地表を探査したり、探査機自身が2回着陸したり、さらには人工クレーターを作ったりするなど、様々なチャレンジをした上で地球に帰ってきました。
──「はやぶさ2」を塩粒だとすると、「リュウグウ」への旅路は地球を5周半周り、チリで朝ごはんを食べている人の目玉焼きの黄身に着地するようなもの、と著書の中で述べられています。どのような精密な作業だったのでしょうか。